BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ■スローステップを君と踊ろう ( No.734 )
- 日時: 2013/09/08 17:12
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: 73BX/oE4)
人ごみに隠れてしたキスはからあげの味がした。
唇に残るざらざたとしたものは塩だろうか。ぺろりと舐めてみると、案の定辛かった。「……お前、からあげ食っただろ」「そういう要はまた酒飲んでる。最近飲みすぎじゃないの」「付き合いがあんだよ、こっちにも」口元を不愉快そうに拭う祐希。だけど、俺は知っている。こいつもさっきまで飲んでたらしいってことを。唇にはからあげの味だけじゃなく、ビールの苦味も残っていた。
「こんなに人がいるとこでキスとかしてくんなよ……見られたらどうすんだ」
「見てないよ、誰も。夜だし。要酔ってるし」
「酔っ払いって言うな。つーかお前も飲んでたくせに」
「まだ一口しか飲んでないよ。要を迎えにくるために中断してきたの」
繁華街のネオンカラーのせいで、祐希がどれだけ酔っているのかはわからない。しかし足元の危うい俺をしっかりとした足取りで引っ張っていくこいつは、酔っているとは言い難い。本当に一口だけだったみたいだ。俺はといえば、先輩にしこたま飲まされたので脳内がふわふわしている。午後十一時、俺の視界はパステルカラーに染まっている。
つないでいる祐希の手は冷やっこい。でもしっとりと汗をかいえていた。まだ蒸し暑い季節だからか、いや、俺が暑いから冷たく感じるだけか。
「要。そこ、段差」
さりげなく人気の少ない路地裏へと導かれた。俺も祐希の男のくせに、そうして一人余裕ぶる姿が気に食わない。酒のせいもあって、イライラを込めた返事をしてしまう。
「わーってるわ。おまえは俺をなんだと、っとっ……と」
「……ほらつまづく。酔っ払いはちゃんと前向いてなさい」
「誰が、」
酔っ払いだ、と反論しようとしたところで、頬を両手で包まれた。
急に近づく祐希の能面。整い過ぎた顔はいつもと変わらず飄飄としていて、誰もが愉快そうに笑っているこの繁華街においては、異端のように思える。……いや、確かに人が多いとこじゃ嫌とは言ったが、人気のない路地裏だからってキスしていいわけじゃない。
祐希の高い鼻と俺の眼鏡のフレームが触れ、視界が一瞬ぶれる。暗がりの中でも、祐希のその透き通ったセピアの瞳が俺を探るようにネオンにきらめいていた。
そして形の良く薄い唇が、俺へと——
「…………やっぱやめとこっか」
——触れ合うことなく、離れていった。
「うん。お互いがちゃんと準備できた状況でしましょう。うん」
「……意味わかんねえ……」
「要だって、からあげでてっかてかの唇とキスなんでごめんでしょ。俺も酒臭い相手とのキスはいやです」
「さっきしておいてそれかよ!」
「教訓を得たと言って欲しいです」
くるりと前に向き直り、祐希は家へと再び歩き出した。こんないかんだ、路地裏には俺たち以外猫一匹いなくて、しんと静まり返っている。お互い仕事で疲れているというのに(しかも、ようやくビール飲んで一息ついたところだったっぽいのに)、それでも俺を迎えにきたくれたんだよな——その事実に、酒が理由ではない何かで胸が熱くなる。
夜風が心地よい。火照った肌にしみいるようだ。祐希の指先から伝わる温度はいつしか俺のものと混ざり合い、温くなってしまった。先ほどのからあげの味を思い出しながら、熱でぼやけた瞼の裏に、二人で暮らすあの部屋を思った。
「要」
「んだよ」
「……からあげ、たくさん作ったんだから。家帰ったからって、すぐに寝ちゃわないでよね」
祐希は、ふてくされたようにそう言った。表情はわからないが、どうせいつもの無表情なんだろう。感情なんてひとつも俺に見せずに、自分のペースで歩いていく。俺がたとえそのペースについていけなくても、無理に手を引っ張り、連れていく。
(そういうやつだよな、こいつは)
あの余裕そうな面を真っ赤に出来るのなら、からあげ味のキスもそう悪くはないだろう。こいつが驚いた顔を脳裏に描きながら、俺は珍しくも、先を歩く祐希の手を強く引いた。
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社会人になって同棲してるパロゆうかな
要は教師辺りになって、祐希は家でのんびり出来る芸術系の仕事やってそう。手先は器用っぽいし