BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■ひとの話をきいてくれ! ( No.741 )
日時: 2013/10/02 21:28
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: yMcAY8PJ)
プロフ: キャラ崩壊すぎなおがふる(おが)、おがが病んでる





 振られた、と男鹿はさも初めて振られたように嘆くが、実際彼が振られた回数なんて星の数ほどあるのだから笑える。

「……なあ、古市」
「何」
「俺ってビンタしたくなるほど不細工か?」
「そうでもないと思うけど」

 三白眼気味な瞳、艶のあるつんつんと尖った髪の毛。筋肉が程よくついた腕から鎖骨までのラインは、女の子じゃなくても少し「いい」と思ってしまう。総合的に見て、悪くない。むしろ男らしくて好評価だ。男鹿は別に不細工だから振られた訳じゃない。ただ、人を愛しすぎるのだ——本人は全くそのことに気付いていないけど。
 男鹿の愛情は別に異性だけに向けられる訳ではない。ついでいうと、種族なんかも関係ない。「好きだ」と言ってくれるなら、どんな生き物を全て愛してしまう。一番ひどかったのは、「ご主人様大好き!」という言葉を繰り返すオウムに恋をしてしまった時だ。あの時の男鹿は嬉しさの余りオウムを抱きしめ殺してしまいそうになった。結局片目をつつかれたことでそれはなかったが、しばらく男鹿の片目には眼帯が付属することとなっていた。

「それよかお前、さっさと泣き止めって。アバレオーガがそんなんじゃみっともないだろ」

 ずず、と鼻をすする男鹿はいつもみたいに間の抜けた顔をしている。しかし目は一晩中涙を流していたせいで赤く、ずっと噛みしめていた唇には血が滲んでいる。体育座りでベッドの端にいるんだから、子どもみたいに見える。
 今回の相手は年上の美大生らしい。ベル坊を公園に連れて行ったときに、その子が野外スケッチをしていたという。「この絵、俺好きだ」と他意もなく素直に褒めた男鹿に、これまた他意もなく美大生は「私はそう言って褒めてくれる人が好きよ」と返した。その返しは駄目だ、特に男鹿に対しては……と俺はその美大生の軽率な反応を呪うのだけれど、過去のことだからしょうがない。
 男鹿は「自分を好いてくれている」とテンプレ通りに解釈し、その場で告白。アバレオーガという人物など知らなかった美大生がそれを了承し、お付き合いが始まった。しかしすぐに彼女も気づいてしまったのだ。男鹿の異常なほど多い愛情に。

「……大丈夫だって男鹿。いつかお前のそのクソでかい愛情を包み込んでくれる人間が一人は現れるよ。だから泣くのやめろって。ベル坊の面倒もちゃんと見ろって」

 抱きしめようとしたらビンタされて「キモい」と叫ばれたらしい。そりゃ風呂にもトイレにも寝るときも食べるときもずっと抱きしめ続けてたら気持ち悪いわ。女の子とは適度な距離感をとることが必要なんだ。
 女の子に振られた後の男鹿は面倒くさい。精神的に意味でどん底に落ちる。自分が生きてる意味がわからない、といつもの真顔で呟き続け、この前なんて壁に頭を打ち付けていた。

「こんな俺にいいとこなんてない……いいとこない人間は愛されない」
「あー、そんなことねーって。お前にもいいとこあるって(多分だけど)」
「じゃあ、古市、言ってみろよ」
「えぇー……そうなっちゃう……?」

 ぎょろ、と何を考えてんのか分からない瞳が俺を捉える。おいおい、何で可愛い女の子でもないのにわざわざ甘い言葉を言わなくちゃなんないわけ? ヒルダさん相手とかならわかるけど、なぜお前を褒めなければならないのだ男鹿。お前おっぱいないだろ。綺麗な太ももじゃねーだろ。

(だがしかし)

 ここで褒めなければ、また男鹿は頭を打ち付け、濁った瞳になってしまうかもしれない。男鹿に友人なんて俺ぐらいしかいないし、そもそもこの性癖(というのか)を知っている奴も家族以外やっぱり俺しかいない。とどのつまり、今のこいつを救える人間も相当限られている訳で。
 結論を言えば、放っておいたら今度はナイフ持ち出しそう。こいつ。だからなんとかしとかなくちゃやばい。

「えーと……まず、男鹿はアレだ、喧嘩が強いよな」
「……」
「後アレだ。背も高いし、あの……筋肉のつきがいいよね」
「…………」
「俺と同じで長い話も嫌いだしなー……友人として好き嫌いが同じってのは嬉しいもんだよ、うん」
「………………」
「……あ、後な……ベル坊を見る優しげな瞳(単に眠いだけだと思うけど!)とか? 他人に何かされても土下座一つで許す寛容さ(単にお前が土下座させること好きなだけだけど!)とか……」

 男鹿は驚いたように俺を見つめている。真っ赤な瞳はまだ濡れていたけど、どうやら涙自体は止まったらしい。ほんのりと色づいた鼻は本当に子どもみたいだ。
 まさかこんなつぎはぎの言葉に騙されてくれるとは思ってなかった。やはり俺にはそれなりの言語力(コミュニケーション能力か?)があるさしい。きょとんとしている俺を見る男鹿に何となく優越感めいたものを感じ、さらに調子よく続ける。

「加えてお前は案外熱いところがあるし、強引さも適度にあるだろ。そういうのに女子は弱いんだよなぁ。男鹿のその胸板にぎゅっと抱きしめて、しかもそのイケメンボイスで愛を囁かれなんかしたら、落ちない女はいないと思うね!」

 ふふん、ここまで言えば大丈夫だろう。その場しのぎの褒め言葉だが、目の前の男鹿には効果てきめんらしい。ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、わずかにこちらへと身を乗り出してきた。
 そしてまだ涙の滲む声色で、おずおずと問いかける。

「……本当にそう思うか?」
「ああ思う思う! 逆に考えてみればアバレオーガっていう肩書きも、ちょっとワイルド系気取ってるって考えたらモテモテになれる要素の一つとして十分に力を発揮するだろ?」
「ワイルド……」

 俺の言葉を繰り返す男鹿の声は弱々しいが、自分を褒められたので嬉しげだ。頬にはうっすらと赤みがさし、瞳は生気に満ちてゆく。
 よし、もうひと押しだ! このまま騙されてしまえ、と俺は拳を高く突き上げて叫ぶ。

「そうだ男鹿! これからお前はワイルド系男子を目指せ! 女の子ってのはなぁ、そういうクールでぶっきらぼうな奴に甘えたなデレデレな一面があるってのにすげー弱いんだ!」
「もしもお前が女だとしたら、絶対に落ちるか?」
「ああ、もちろ—————アッ」

 やば、い。
 それは直感というか、殆ど感覚だった。ついつい流れのままに頷いてしまった俺は、ようやく男鹿のその表情がやけに色っぽいことに気づく。いつも隣で見ていたはずの、けしてこちらに向けられることのないあの熱い視線が——俺に注がれている。
 ぞくりと背中に悪寒を感じたのはある意味早く、そしてある意味では遅すぎた。

「…………古市、俺と付き合おう」
「エッ」

 突然の男鹿の告白に、口から心臓が飛び出てしまいそうになった。
 さっきまでの泣き虫はどこへやら、男鹿はいつのまにか女を口説く時のイケメンモードへと切り替わってしまったようだ。すい、と鳥肌がたった俺の両手を恭しく掴むと、ずい、とこちらへと身を乗り出してくる。
 ……いや、距離が。距離が近いんだけど!

「そうだ、俺が間違ってたんだ。だってお前はこんなにも俺を見ていてくれていたのに俺はそれに気づけないまま今までクソみてーな生き物共に目移りばっかしてたんだよなごめんな古市これからはお前を一番に一番大切に一番たくさん愛してやるから許してくれ……」
「…………あの、いえ、男鹿さん?」
「古市、」

 だから距離が!と俺が怒鳴ろうとする前に、男鹿は相変わらず綺麗に整った顔を俺へとさらに近づけ、幸せそうに微笑みながら言う。

「愛してるぜ」