BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

マスシン ( No.752 )
日時: 2013/11/08 00:46
名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: yMcAY8PJ)



「俺はお前たちのことを、別に犬だなんて思っていないんだ」
「…………どしたんすか急に」
「いや、お前たちの考えを正しておこうと思ってね。ジャーファル君辺りがこんなことを聞いたら、すぐさま反論しそうだからな。だからあえてお前を選んだ訳だよ」
「はぁ……そうすか」

 マスルールの気のない返事に、シンドバットは気分を害した様子もなく「何だ何だ、疲れてるのかー?」と見当違いな返事をした。まさか彼が疲れている理由が自分にあるなんて少しも思っちゃいない。俺が疲れてると分かるぐらいなら、少しぐらいこの書類に手をつけてくれないっすかね。そう言いたいのをぐっと堪えるのは、目の前にいる男が王であり、また自分の使える主人だからだ。
 すっかり太陽も沈み、夜の帳が下りている。暗い部屋に灯る光はシンドバットの着いている机に置かれたランプのみだ。二人とも横顔を闇に曝したまま、お互いの顔を見ようともせずに話し続ける。

「んで、何なんすか」
「何がだ?」
「俺たちがアンタの忠犬じゃないなら、何なんすか。狼や虎とでも?」
「……ふむ。ジャーファル君が他の仕事に行き、俺が一人になるのを見計らい何かを期待してやってくる————という点ではお前は狼だろうけどなぁ。……いやいや、違う違う、からかってるわけじゃない! だからその冷ややかな視線を今すぐやめろ! ちょっと傷つくから!」

 シンドバットの軽い口調にだんだんとマスルールの視線が冷ややかになっていく。耐え切れずにシンドバットは声を荒げてその場を取り繕ったが、マスルールは「はぁ」と本人によく聞こえるような大きな溜め息をついた。その溜め息にシンドバットは何とも言えない顔になる。
 やがて、さっきよりしょげた様子の王様は小さく呟いた。

「鳥だよ。お前らは、鳥だ」

 シンドバットは拗ねたように肘杖をついた。隣に立つマスルールは主人の動きに対し、わずかに視線を動かしたが何か言うことはなかった。代わりに、戯れのような会話への言葉を返す。

「鳥、すか」
「そうだ。一人ひとりが大きな翼を持ち、飛び立てる。そして俺をどこまでも広い世界へと連れ出してくれる鳥だ。羽ばたこうと羽を動かす度に風を起こし、葉を揺らす——良い影響を与える」
「……でもそれは、シンさんのような飼い主がいるからしていることじゃないんすか」
「お前たちは一人でも十分に生きていけるよ。この俺が保証する!」

 ——その言葉に、マスルールの目尻が微かに震えた。
 トン、と言葉と共に胸を叩いてみせたシンドバッドの腕を掴むと、顔を隠されないようにぐいっと顔を近づけた。先ほどまで人形のように静止していたのが嘘のように、行動は素早かった。シンドバットがぱちくりと瞬きをするかしないかの間に、マスルールは無表情に言った。

「一人で生きていけるとしても————俺はまだ、アンタから貰う木の実を啄ばんでいたいっすね」

 そして、まるで木の実を啄ばむように、呆気にとられているシンドバットの唇へと自分の唇を重ねた。ぴくりとシンドバットのめは驚きで丸くなる。二人共、目を開いていたので、視線はつながったままだった。
 薄く開いた唇を割るようにマスルールはさらに顔を傾け、深いキスをしようとした。だがその瞬間——がりっ、と歪な音が熱い口内に響いた。「っ、」思わずシンドバットから離れると、ぽたぽたと床に雫が落ちる音が耳についた。

「……血」
「おや、舌を噛み千切るつもりだったのに……やはりお前は強いな。俺の奇襲にも動じない」

 床から顔を上げると、にっこりといつもと変わらない微笑を称えている王に出会う。マスルールの唐突なキスに動じた様子もない。
 ……ただ一つ異様なのは、その弧を描く唇の端から——真っ赤な筋が一本流れているということだった。真っ暗闇の中で、その一筋が血だとわかったのはきっと当事者である二人だけだろう。

「マスルール。駄目だぞ、そうして俺の与える実ばかりに依存し、信用しているだけでは。実の善し悪しが分からぬうちは、まだまだお前も子供だな」
「…………」
「俺が甘い実ばかり与えると思うなよ? こうして、ほら————毒を持つ実だって、ちゃんとあるんだから」

 そうしてさらに笑みの色を深めた自分の主人に対して、マスルールは背中が粟立つのを感じた。
 自身の舌に残るじくじくとした痛みだけが、思考を正常にしてくれた。








■齧った赤い実、毒ひとつ?








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マスルールかわいいよぉふえぇぇぇって思いながら再び投稿するささめの気持ち悪さなんていつものことなんだからそんな目をするのはやめてください!勃ちます