BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■君が死ねと言ったから今日は自殺記念日 ( No.755 )
日時: 2013/11/17 22:28
名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: dvUrJGSo)
プロフ: ベルライ

※グロ描写有り
※本編のネタバレ有り












「内臓はあまり好きじゃないんだ。だって何だかぶにぶにしてるし、生臭いし……いや、ちゃんと焼いたら美味しいんだろうけど戦場じゃそうも言ってられないだろ。僕は嫌いなものも食べなさいってライナーが言ってたから出来るだけちゃんと食べ残しのないよう食べるけど、アニはなぁ……アニってああ見えて偏食なところがあるから、よく内臓放っておいて手足だけ食べる、なんてざらなんだよ。ぼ、ぼくはちゃんと注意してるよ。でもアニはきいてくれないんだよ」

 言い訳ついでに、ちゃんと自分は食べているということを示すために、手にしていた人間の大腿骨を口に運んだ。年寄のためか骨と皮しかなく、その上妙に独特の臭いがある。たまらずに味わうこともせずすぐに飲み込み、アニが食べ残していた赤ん坊の脳髄を啜りあげた。むにゅむにゅとした細胞たちは少し飲み込むのが難しい。
 岩壁を背にし、ライナーは僕が咀嚼し終えるまで行儀よく待っていた。待っていたというより、腰が抜けて立てないだけで、目の前の状況の悍ましさに逃げる気力を奪われていただけかもしれない。それでも目の前でライナーがいてくれているという状況は本物なので、そこをどうこう言うつもりはなかった。

「ライナー」
「お、俺の名を呼ぶな、化け物」
「そうじゃない。君は兵士じゃない、戦士だ」
「違う俺は戦士だ、だ、だからお前ら巨人をころ、殺す」
「…………ライナー」

 ぶるぶると震える両肩に、落ち着けさせようと手を置いた。ぬとり、とさっき死体を頬張るときに染みついた鮮血が、彼の肩口を、自由の翼の象徴であるマントを汚した。刹那、動けなかったのが嘘のように、ライナーが力任せに拳をふるった。
 ライナーの本気の拳に、しかも窮鼠猫を噛むという状況にぴったりな危機的状況下においての拳に、僕が対抗できるはずがない。ばきり、と甘んじてその拳を受け入れ、大人しく地に倒れた。生身なのでさすがに痛い、けれどまぁ、ライナーの拳も同じぐらい痛むのだと思うとその痛みすら愛せた。

「ラ、ライ——」「——ッ、死ね、この化け物!!」

 吐き捨てたその言葉は予想通りのもので、そして、何度言われたかも覚えていないほど馴染みのものだった。今にも泣きそうな顔をしたライナーの顔は真っ青で、まるで自分を本当に兵士だと思っているのは表情で。
 たらりと口の端から伝うこの血は、口にした人間のものか、それとも化け物である僕のものか。色は赤だし、成分もきっとほとんど変わらないのに。それでもライナーにとって今の僕は化け物で、ライナー自身も化け物なくせに人間らしい。ああ、おかしい。
 地面の冷たさを頬に感じながら、僕はひどいなあ、と唇の端だけで笑って見せた。


「ライナーだって、人を食べるくせに」