BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■今日も私はきっと世界の王様 ( No.761 )
日時: 2013/11/24 02:08
名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: TjCRtQ22)




 小学校の頃から、ぼーっと考えることがある。
 世界がこれから滅びるとして、もし私が世界の生き残りを選べたら、誰を選ぶか。人数制限はあったりなかったり様々だ。たった一人だったらどうしよう、五人なら誰を選ぼう。不謹慎にも、我儘にもそんなことを昔から考えてしまう。
 小学校三年生ぐらいの頃は、クラスの大半を生き残らせたくてうんうんと一人困っていた。大切な誰かを五本の指に入れるために、この子とこの子どちらがより優れているか、どのような得があるのかを必死に頑張っていた。
 身内を入れるか否かも考える。両親兄そして祖父母いとこ家族を入れるととても指は五本じゃ足りない。どうしよう、本を買ってくれる父さんかな、美味しい料理を作ってくれるおばあちゃん。話を聞いてくれるお母さん。いつも笑顔の兄ちゃん。遊んでくれるおじいちゃん。いとこは優しい。ああ、どうしよう、どうしよう。今思えば本当に不謹慎だ。今でも不謹慎だ。
 昔は悩んだ末に、ああ、と未来に思いをはせることが多かった。
 これから私はたくさんの人と会うけど、その度に大切にしたいものとか残したいものが増えてくんだろうな。増えたらどうしよう。指は足を合わせても二十本しかない。それだけで世界に生き残らせてあげられるかな——いやもう本当に独裁者かつ自己中な話だと思う。現在高校生となった私からしてみたらただのクソガキの妄想なくせに広がり過ぎだばっきゃろー!と鼻フックしたいぐらいだ。
 閑話休題。

 
 ということで、先日久しぶりにその「世界に生き残らせる人選び」を眠たい一限目の現代文の時間にやってみたのだ。クラスの皆を含めて。
 やってみて驚いたのは、指が一本も動かなかったことだ。誰かを数えることをしなかったこと。それはつまり、大切にしたいと、世界が終わってもその子たちときゃっきゃしたいと思えるような人がいないって訳だ。
 範囲を狭めてるから駄目なのかと思い、隣のクラスや後輩たち、そして理系のクラスも含めて考えてみた。駄目だった。ゼロだった。いつも一緒にいる二人組も、大好きな尊敬すべき同中の子、明るくみんなに好かれている美少女、ノリが合う下ネタ言い放題の長身の子。
 たくさん関係はある。たくさん仲良くしてる。それなのに、世界が滅びても、私以外そこには誰もいなかった。




 母親は私をおかしいと言う。

「母さんが学生の頃は、たいてい誰か決まった子と仲良くしてたけどねえ。お互い親友だと思ってたし、今でもまぁ、会えはしないけどメールや手紙とか送られてくるし。その子とクラス替えで離れたって、わざわざ会いにきたりこられたりしてたわぁ。アンタはそういうのがないねぇ。ちゃんと大切にしたいものを見つけられないのは……うーん、おかしいというか、寂しくない?」

 美少女は私にそうだねと言う。

「結局人間って一人な訳じゃん。つまり一人なんだから他人とどれだけ関わろうと一人なわけじゃん。それって孤独なんだから、関わるの意味ないじゃん。なんかそういうこと考えてる。そういうの考え過ぎて、この前人間不信になったけど」

 幼馴染は何も言わなかった。

「私は嫌いな人と好きな人の差が激しいから、何とも言えんけど。でもお前の誰にでも態度を変えずに笑顔で接することの出来るところは、いいと思うけど、苦しくて私には出来ないと思う。……なんか、可哀想とも思う時がある。辛くないの、それ」

 三人の意見は対照的で、だからどうしたというわけでもないけれど、はあ、と頷くものがあった。三つあるのに対照的って、何だかおかしな表現っぽい。的外れな意見しか抱けなかった。





 どんな人でも好きだ。好きになれる要素がある、と思う。その要素が少しでもある限りその人への評価は嫌いには成り得ない。嫌いな部分がいくらあっても好きという結論に落ち着く。けなされても、恨まれても、傷つけられても、それは私の主観だ。痛いと思うのは私だけの主観だ。主観じゃなく客観的に相手を見れば、誰だって好きだと思える。これは義務だ。誰かを嫌っちゃいけない。誰かを嫌ったらそこから綻びが見え始める。誰かを嫌えばその人にだけ態度がおかしくなる。恨み言しか言えなくなる。どれだけ嫌な思いをしてもどれだけ相手に嫌われても私からは嫌ってはならない。どこまでも笑顔でいる。好きの大量生産を働く。ベルトコンベアに乗せたハートに赤やピンクで色づけをして送る。

 ひっくり返す。

 どんな人でも嫌いだ。嫌いになる要素がある、と思う。その要素が少しでもある限りその人への評価は好きには成り得ない。好きな部分がいくらあっても嫌いという結論に落ち着く。褒められても、愛されても、抱きしめられても、それは上辺だけだ。好きだと思うのは私だけの主観だ。主観じゃなく客観的に相手を見れば、誰だって嫌いだと思える。これは恐怖だ。誰かを好きになっちゃいけない。誰かを好きになればそこから綻びが見え始める。誰かを好きになればその人に依存してしまう。泣き言しか言えなくなる。どれだけ好きでもどれだけ相手に好かれても私からは好きになっちゃいけない。どこまでも厳しくいる。嫌いなところを見つける。ベルトコンベアに乗せたハートを押し潰していく。粉々に。


「真反対だけど、全部あたしなんだなぁ」

 ハートを生むことも押し潰すことも両方面倒な私は、今日もいつものように働きもせずのんびりと椅子に座っている。そのせいか。私の世界には住人がいない。







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出ていけどうぶつのもり