BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

もう一回再あっぷ ( No.767 )
日時: 2013/12/09 00:57
名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: 5YBzL49o)







「……なな、な何が怖いのかって…………ぜ、全部こわいですよ」

 こわいは絶対に他人と目を合わせない。そんなに他人が怖いなら逃げればいいだろ、と以前切れてみたことがあるが、切れたらその場で腰を抜かしてしまった。どうやらこいつには逃げる気力もないらしい。そうして俺の真正面にいながら、一切俺とコミュニュケーションしないという手段をとる。独り言みたいに小さい声量だから聞き取りづらく、余計にイライラする。
 墨で塗りつぶしたみたいに真っ黒い頭。黒すぎて見ているこっちが憂鬱になってくる。そして髪の毛よりもさらに深く濁った双眸は、やっぱりこっちを見ない。

「全部って、何がだよ」
「だだだ、だだからぁ……そ、それは全部です、ぜ、全部です……」
「あぁ? それって俺のこともかよ」
「ヒィイ! お、怒らないでくださいよお」

 あんまりうざいので少し強めに言うと、それだけでこわいは涙を流す。ただでさえ真っ白な顔が青みを帯びていく。唇がわなわなと震えて呼吸が乱れていく様子を、俺は舌打ちひとつで払いのけた。
 何なんだ。何がこわいんだ。一体何がそんなに怖くて、お前は俺から距離をとる————聞きたいことはたくさんあって、でもそれを全てこいつは拒絶するから、答えなんてわからない。

「俺は、この世の中がきらいだけど、お前と違ってこわくはねえよ」
「そ、そ……そそれは、よよ、よかったですね、うぅ」

 んだとこの野郎、と殴りかかりそうになった。俺が短気だということをこいつもよく知ってるはずなのに、こん畜生。右拳を振り上げたところで、こわいの震えが最高潮になる。ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる。発作みたいに、露骨に怖れが現れる。
 しまった、と我に返った。慌てて振り上げた拳をパーの形にし、震えまくっているこわいの肩に、触れる。触れた瞬間ひときわびくりと驚いた。

「う、うううう、な、殴ればいいじゃないですか……なな、なぐれ、れれば……」
「…………あー、悪かったよ。つい、かっときたんだよ。わざとじゃねェんだから怯えんなよ」
「ぃぃいいいい……む、むむむむりで、す……お、おれ、俺はこわぃ、い、です、う……きら、きらぃく、んも…………こわい、こわいですょお、ううう、うううう……」

 こわい。いつもの口癖と共にこわいの瞳の焦点がぐるぐると回遊を始めた。ぐるぐると回る瞳はどこまでも濁りに底がなく、ずっと見ていると引き込まれて死んでしまうそうになる。こわい、と唇の端から漏れる言葉は呪詛のようにも聞こえた。
 こわい、こわい、こわい。呪いは俺とこわいの間に鬱々としたドス黒い空気を生んでいく。体の震えは止まる気配がなく、むしろこいつが口を開く度に悪化していくようだった。

「ううぅうううう…………こ、こわいんですよお、こわい、いぃ……みんな、すぐ、ぅ、う、おこ、怒るし、な、泣きますしぃ……なにを、してもぉれ、俺は駄目だし、こわい……なにも、ぜんぶ、こわいですよぉ…………」
「……好きなものとか、こわくないものって、お前にはねェの?」
「すすすす、……すき、すき、もこわいですよ、ううぅ……」
「何で」
「あ、うう……ぉ、ぉれ、俺に……も、わか、わかんな、わかんないですよ、う」
「だから、何で」
「う、う……」
「お前がそうやって全部こわがるのは、何でだ」
「うう、うっ、うう……」
「さっさと答えろよ。何でお前はそんなにこわいのか」
「うううううううううう、うぅうう……」

 うげぇ。
 長い問答の末に、こわいはその場で吐いた。少食だし偏食だし食事が苦手なこいつの胃の中に入ってるものなんてさっき飲んでた麦茶ぐらいのもので、液体状のそれらがびちゃびちゃと床にこぼれた。幸いだったのはこわいは引きこもりなので吐いたこの現場がこいつ自身の部屋であることと、いつも汚れても大丈夫な適当な服をきていたこと。その二つに尽きる。
 空っぽの胃を抱えるようにして、こわいが涙を流し膝から崩れ落ちる。こうなってしまうのはよくあることなので、俺もよくやるように、げえげえと吐くこわいの背中を撫でてやる。俺が触れる度に恐怖でまたえずく姿は、異様とさえ言える。

(……あー、また逃げられた)

 畜生。今日何度目かの舌打ちをしながら、俺は教師から頼まれていたプリントを、無意識に握りつぶした。












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創作BLです


・現実こわい君
 現実がとにかくこわい。引きこもりコミュ障。黒髪黒目。死んだ目をしている。だるだるのもえそでみたいな服着てる。基本的に他人が怖いし自分も嫌いだし苦しんでる。

・現実きらい君
 自分の女装を認めてくれない社会が存在するこの現実がきらい。描写なかったけど金髪で女装をしている。不良。学校には真面目に行ってる。こわい君のためにプリントを持っていってあげてる。


 っていうクソ妄想
こわきらでもきらこわでもいいです