BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■きみがきらいだよ ( No.768 )
日時: 2013/12/09 01:20
名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: 5YBzL49o)
プロフ: ひたらぎ








「阿良々木君のことが、嫌いよ」


 僕の彼女である戦場ヶ原ひたぎはいつも最初にそう告げる。例えば珍しく彼女の毒舌トークが途切れたとき。例えば僕と彼女の視線がひたりとつながったとき。例えば僕がぼろぼろの姿で彼女の出くわしたとき。
 彼女は必ず、僕を最初に嫌う。

「彼女である私以外に優しいところ。誰よりも自分を尊重しないところ。弱いくせに自分より強い得体のしれない何かに突っ切っていくところ。自分のものじゃない痛みを抱えるところ。どんな悪役がいても平等に見据えて同じように接するところ。妹さんたちのことが嫌いだと言いながら心から彼女たちを成長を心の底から願っているところ」
「……最後のは絶対違うだろう」
「すぐ女の子に優しくしてフラグを建てちゃうところ。平気で優しい嘘をつけるところ。自分のことは自分でしちゃうところ。大切な人のためなら命だって惜しまないところ。大切な人のためなら自分を殺しちゃえるところ。恩を着せるという言葉を知らないところ。ハイリスクを負うくせにリターンは望まないところ」

 たくさんあるのよ。彼女の白魚のような指先が、順々に立っては曲げ立っては曲げ、と僕の短所を数えていく。言葉にはそれ以上しないが、きっともっとたくさん僕の短所はあるのだろう。彼女のような完璧な人間には目も当てられない短所が、いくつもあるのだろう。

「でも、一番の短所はこれね」

 はあとため息交じりに、人差し指を立てる戦場ヶ原。桃色の爪を淡く光らせ、彼女は呆れたように僕に視線を寄越した。

「それだけ短所があるくせに、私のような超完璧美少女かっこ未経験のメルヘン処女かっこ閉じ、を虜にしてやまないところ——かしらね」
「……それ、僕のことごと褒めちゃってないか?」
「あら。人生という道程を極めてもいない童貞に褒め言葉と悪口を同定されたくはないわね」

 戦場ヶ原ひたぎは一切照れた様子もなく、ひらり、とスカートのプリーツを優雅に翻しそっぽを向いた。透き通るように白い肌が、柔らかそうなその頬が、わずかに桃色に染まっていることなど言及する意味などないだろう————彼女がくれたその悪口とやらだけで、僕は十分なのだから。
 だからこそ、僕は何も気づいていない振りをして、愚者を気取り不貞腐れた様子で机に頬杖をついた。にやける口元を隠す意味合いも、そこには無きにしも非ず、だ。




「へいへい。童貞如きが調子に乗って悪うございました」
「本当よ。ただでさえ呼吸をするという行為において阿良々木君は調子に乗っているというのに。よくもまあそんな風に調子こいて二酸化炭素を生めるわね、厚かましい」
「僕の人権は呼吸に関して皆無なのか!?」










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全部嫌いだけど、全部好きだったりするんです
それが愛だと勝手に思っちゃってます