BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■美女は野獣 ( No.770 )
日時: 2013/12/21 01:10
名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: PduCEO2V)
プロフ: ラビユウ(過去捏造)







「エクソシストなんて……結局、化物と同じだ」





 そうコムイに吐き捨てた黒髪の少年の名をラビは知っていた。

(……えーっと、たしか、神田ユウ)

 六幻とかいう刀をイノセンスとして保有している、ハズ。性格は知らなかったが、肩口で切り揃えられた髪の毛が、彼の真面目さを表しているようだった。紙面でしか知らない彼は記載された情報よりずっと人間味が溢れていて(当たり前か)、そして幼い風貌をしている。背の低さも、少女のような細い肩も、全て自分と同い年とは思えなかった。コムイを睨みつける表情こそ大人びていたが、傍目から見ていると、それはとてつもなく似合わない。本当の自分とは別に、堅く強い殻を纏い、弱さをひた隠しているような。そんな印象を受けた——まあ、ブックマンとして偽物の自分を生み出し続けている己も、他人のことをどうこう言えはしない。
 ころころと変える自分の姿の中で唯一変わらない、アイデンティティである左目の眼帯に、ふと触れる。任務から帰ったばかりで、しかも今は真冬だ。標高の高い場所に位置している教団には、入るだけで体中が冷え切ってしまう。ぶるり、と背骨に走る冷たさに震える。
 神田ユウは最後にもう一度コムイに視線をくれてやると、踵を返し、小さな体躯に見合わない六幻を抱えて、走り去っていった。こんなに寒いのに着物一枚とは、なかなかの強者さぁ。口笛交じりに言ってみせると、隣のブックマンが額を小突いた。強い痛みはないが、ばつの悪さを覚える。

「室長殿」
「ああ、ブックマン……と、ラビ。お疲れ様です」
「ただいまさー」

 ブックマンたちが近くまで来ていたことに、コムイは気づいていなかったようだ。はっとした後、さっきまでの強張った表情から、人当たりのよい笑顔へと変わる。そんな風に笑ってみても、目の下の隈も、どこかくたびれた服も何も変わらない。そのことに言及しようとすると、分かっていたかのように、ブックマンが「そういえば」と話を切り出した。

「あの子どもは、確か……神田ユウじゃったな。どうした、何か怖い顔をしておったが」
「……見ていらしてたんですか。いえ、ちょっと……」
「あの子の体のことを心配したら、逆に切れられたってとこじゃね? どうせコムイがまた、エクソシストは特に大変だからっつってあたふた心配して、医務室に行けだの休めだの言ったんさ————って痛ッ!! な、何さァクソジジイ! 足で頭を殴っか普通!?」
「お前はぽろぽろ好き勝手言い過ぎじゃ。いい加減黙らんと、ちょちょっとその口縫うてしまうぞ」

 ぐぬぬ。コムイの前だからこそ実力行使には至らなかったが、ブックマンの細い目に宿るのは紛れもなく本気の光であり、ラビは黙る他ない。コムイはそんな師弟にふふと笑いを零すと、先ほど神田が消えていった方向に目をやり、つらつらと話し出した。

「大体、ラビの言った通りですよ。この二週間ほど、神田は毎日東へ西へ休みもなく任務をしに行ってるので、心配になってしまって。本人は平気だの一点張りだから、僕自身もついつい強く言ってしまって、それでイライラさせてしまってるみたいで……」
「それで、あのように」
「はい。お前らだってエクソシストが恐ろしいんだろ、生物兵器としか思っちゃねえんだろ——そんなことを正面切って言われたのは、さすがに初めてですよ。僕らは、あんな小さな子にそんなこと思わせちゃってたんだと思うと……個人的に後悔を感じてしまいますね」
「後悔など感じなくていいんじゃ、室長殿」

 困ったように笑うコムイをブックマンが叱咤する。黒く縁どられた双眸は冷たさを孕み、教団の室長である男をじっと見つめる。しゃがれた声と共に放たれるのは、使われる駒としてのエクソシストの立場からと、ブックマンという歴史の外側から記録する者の立場からと、両方による言葉だった。

「お主はただいつだって聡明な判断を我らに下せば良い。一人の感情に、思いに惑わされるな。我々を統括する者が、そのようにふらついておってはどうする、室長殿よ」
「……ええ。それは、わかっているんです。でも、」
「大丈夫じゃ。神田ユウが言った通り、我らはイノセンス——神の結晶何て言うけったいなものを持っておる。自身を化け物と錯覚し苦悩することもあるじゃろう。じゃがそれはそれじゃ。本人の問題じゃ。自分は化け物、いや、エクソシストであることを自己確立の材料にしていく兆しが無ければ、他者があれこれ言っても叶わんじゃろうに」

 ラビは言いつけ通り、ブックマンの言葉を黙って聞いていた。同時に、先ほどの神田ユウとやらの少年の姿を思い返す。つりあがった黒目がちの目、でも睫毛は長かった。薄い唇は小さくて、何食べてもお上品に食べるんだろうなあ、と妙に想像し易かった。細そうに見えた指先には、やはり剣士らしく、タコがたくさんできていた。
 ブックマンの真をついた言葉に、コムイは「そうですね」と感情を押し殺すように返す。少し震えた声は、さっきの神田ユウをどうしようも出来なかった己にたいする責任によるものか。はあーあ、大人って大変さぁ、と呆れる一方、そんなコムイを慰めてやりたい衝動に駆られた。

「大丈夫だってコムイ、エクソシストなんて、ただの人間と変わらんさ」
「うん……僕も、そう思うよ」

 コムイは子どもに諭されたのが面倒だったのか(コムイに限ってそれはないと思うけど)、曖昧な笑みで俺の言葉を濁す。眼鏡の奥の瞳がきゅうと細まるのを横目に、もういなくなった神田ユウのことを思う。
 神田ユウ、と心の中で、聞こえもしないだろう名前を呼ぶ。
 不健康そうで女の子みたいで、いかにも気が強そうで、他人と関わるのを嫌いそうで。そのくせ腕っぷしだけは強そうな、紙面上でしか知らなかった少年の姿を、ぼんやりと思い描いた。


「……お前みたいに綺麗な人間が、化物なんて」



 あるわけないさぁ。
 ブックマンにもコムイにも聞こえぬようにつぶやいた言葉は、きっと、本当の自分としての感情だろう。そう信じたいと、ラビはまた眼帯に触れた。









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昨日のうちに早退して病院いって注射されて帰ってきて今日は休みました
朝頭がほんとつらくてだるくて「無理動けない頭つらい」と言ってたときの母親の「頭痛なんて!!!!病気じゃないの!!!!気の持ちようなのぉ!!!!」というヒステリックな叫びと責め苦が今になってフルスイングしてきてます
薬切れてきて頭痛いけどこれも苦しんでるアピールになりますか母さん