BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 高→←緑 ( No.778 )
- 日時: 2014/01/13 00:23
- 名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: PduCEO2V)
- プロフ: 両片想いの進学前のお話
時間なんて知りたくもなかった。でも、とっくに下校時間を過ぎていることは知っていたし、季節が冬で俺たちの卒業が目前にまで迫っているとはわかっていた。学校を出たときは六時前だったから、きっと今は七時を回ったぐらいだと思う。曖昧なぐらいなら時計を確認しろと怒られそうだけど、時計を確認する気も起らなかった。
場所なんてもっとわからなかった。俺一人がぺちゃくちゃと昨日の晩御飯や先輩たちの近況、さらにはドラッグストアで安売りしていたシャンプーの話なんてしている間に行きついた場所だった。住宅街というには閑散とし過ぎていたし、何もないかといわれれば寂れた公園がぽつんと存在していた。
たった一つ、感覚だけが鋭利に研ぎ澄まされている。
爪先から腰までがやけにずっしりと重くて、腰から首にかけてはじわじわと何かがせりあがってくるような圧迫感に包まれている。頬は長時間外気にさらされているせいで氷みたいに冷たい。髪の毛なんて、朝あんなに苦労してセットしたくせに、風に当たりすぎてぐしゃぐしゃだ。
俺より少し前の方を歩いている緑間は、何ひとつ乱れていない姿なのに。いつものように、しんとした深緑の瞳で、形の良い唇で、俺の前に存在している。姿勢よく伸ばされた背筋は、まるでこいつ自身の信念を表すように凛としていて羨ましさを覚える。
うん、やっぱり、羨ましい。心中で頷いた拍子に俺の中で弾ける、それ。弾けた赤色は果実のように鮮やかではない。どす黒くて、濁っていて、それでいて鉄のような臭いがする。
「真ちゃん。大学に行っても、俺ら、友達でいような」
口をついて出たのは、嘘みたいな言葉だった。その一言を口にした瞬間こぼれ出る吐息は、俺の本音とは対照的に真っ白だ。冬だから、そりゃ息も凍る。巻いているマフラーなんて無いのと同じぐらいに、寒い。
緑間はついと歩みを止める。ローファーの爪先は、スニーカーの俺と違い擦り傷が一つもない。毎日丁寧に手入れをしているのだろう。俺なんて、靴を揃えることもしないのに。些細なことすら俺と緑間に隙間を生んでいるようでイライラする。隙間を埋めたくて、一歩緑間へと踏み込み、もう一度言った。先ほどの嘘っぱちの言葉を本当にするために、緑間へとその想いを伝えるために。
「お前と相棒でいて、よかったよ」
きっと、たぶん。おそらく、おおよそ——語尾にそれらのどれかをつけるべきか一瞬悩んだ。しかし、つけない方が正解だろう。俺の想いを告げるにはたったそれだけで良い。くだらないことを付け足せば、緑間は聞いてもくれない気がする。
振り返った緑間の表情は、驚愕でも、照れでもなかった。初めて見る緑間の、その端正な顔立ちが悲しみに彩られている。試合に負けた時だってそんな風に顔を歪めなかった。見ているこちらの方が苦しさを覚えるような表情。
「なんだよ、変な顔して。馬鹿め、だの阿呆が、とか言ってくんねーの?」
「……自覚しているなら、わざわざ俺が言う必要はないと思うが」
「まぁ、そうだよね」
あはっと笑いをこぼす。この場の空気をどうにかしようと思い頬を吊りあげてみたのだが、それは逆効果だったようだ。俺の問いかけに冷たく返した緑間の声が震えていたのはもうわかっていたし、彼が今どんな気持ちなのかもわかっていた。わかりたくなかっただけだった。知っていたしわかっていた。ただ俺が目を閉じて知ろうとしなかっただけで。
暗がりの中、街灯も無いので周囲は黒に包まれている。しかし俺と緑間お互いの顔ははっきりと見えていた。緑間は真っ直ぐに俺を見つめていたし、俺も緑間を真剣に見つめていた。仏頂面は寒さでわずかに赤く染まっている。もっと早く言えば、こんな寒空の下こんなに凍えなくても済んだのかもしれない。
「しかし……それでも、俺はあえて言うのだよ」
胸の奥で、赤色がじわりと溶けて、流れた。赤と呼んでもいいのか悩んでしまうほど汚いそれは、弾けた今では尊く思える。ゆるりと、ようやく動き出したその赤色は、血のように薄く細く伸び、俺の身体を巡り始めた。
「お前は——大馬鹿だ」
それまでいつも通りだった緑間の左目から、透明な滴が頬を伝い流れ落ちた。緑間の言葉は衝動のままに言った短絡的なもので、緑間らしくない。緑間らしさ、緑間本人の考えなんて未だにほとんどわからないけれど、ぼんやりとは気づいた。緑間が悲しんでる、辛さを味わっているということに。
本来なら慰めるべきなんだろうけど、かける言葉が見つからない。触れる右手の行方が、自分でもわからない。抱きしめることは不正解で、嘘だと笑うことも正しくない。ならばどこに正解があるのかと問いかけることすら間違っていた。
「…………ごめん、ごめんな」
ふいに大声をあげて何かを殴りたくなった。
胸をつく衝動は熱く重く乱暴なもので、少しでも息をしたら全てが漏れ出してしまう気がした。焼切れてしまいそうな喉は泣く寸前で止まっている。泣けない。俺は泣いてはいけない。正しい世界に生きようとするなら、俺は泣いてはいけない——暗示をかけて、正しくあろうと前を向いた。
緑間の嗚咽が、今まで必死に留めていた二人分の呼吸が、今ようやく世界に零れだしていく。それをどこか遠いところで見つめながら、俺ははぁとまた吐息を凍らせた。
さようなら、さようなら。俺の相棒。
お前といた時間は、とても楽しくて、面白かった。
■うつくしきまなこ
見ないで、と嗚咽に負けぬように叫んだ。「やめて、こんな汚い私を見ないで。どうか、知らないふりをしていて」しゃくり上げながら訴える私のことを、最愛の貴方はじっと静かに見つめている。エヴァーグリーンの双眸は美しく、そして揺るぎない。貴方のその視線はどこまでも真っ直ぐで、私はその鋭さにいつだって傷ついてしまうのだ。
****
新年お初がとても薄暗い!!!!!!まあこんなもんです
久しぶりすぎてどうかけばいいのか右往左往上下斜めにドビュン