BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ■それは午前何時の出来事だろう ( No.782 )
- 日時: 2014/01/19 22:41
- 名前: 節度使 ◆rOs2KSq2QU (ID: PduCEO2V)
- プロフ: 鴇→朽/居候始まったばっかぐらい
早朝からたたき起こされたのは、どうやら俺だけみたいだった。あんぽんたんこと我が寺のカリスマ炊事当番こと篠ノ女は、朽葉の目覚ましコールにはどうやら動じなかったらしい。遠目に見える離れの障子はきっちり閉じられたまま、動く気配もない。沙門さんは沙門さんでどこか出かけてしまったようだし、実質、こうして寺の前の皮で洗濯をする係は、俺と朽葉の二人になる。
まだ電気ストーブやカイロなんてない時代だ。マフラーなんて洒落たものがないので、何枚も着物を重ね着している。それでも鼻は赤くなるしはあと唇から洩れる息は白い。
「江戸の冬は、寒いねえ」
「そうでもない。毎日こうして鍛錬をしていれば、自然と肌に冷気は馴染み、精神も鍛えられるというものだ。寒い寒いと言えばいうほど人間というのは寒さを感じやすくなってしまうからな。逆に寒さを試練だと考え直し、自身のためになるようにしていかなくてはならない!」
「っていう?」
「…………しゃ、沙門様の教えだ」
「なるほど」
やけに饒舌だと思えば、やはり。春夏秋冬変わらない出で立ちをしている朽葉は、今日も元気に胸のあたりにさらしを巻き、お腹は丸出しのスタイルだ。青少年としては喜ばしいことだが、これだけ寒い中そんな無防備な恰好をされていると、逆に申し訳ないような気持ちになってしまう。
「朽葉、ちゃんと着物の前を締めときなよ。そんで、もう一枚分厚いのを着ておかなきゃ。風邪ひいちゃうよ?」
「私をお前たちと一緒にするな。私は毎朝鍛錬を積み重ねている。ちょっとやそっとの寒さでは音を上げない!」
「いやいや、風邪ってそういう慢心からくるんだって。……ほら、冷たい」
ぺちり、としゃがみこんでいる朽葉の頬に手をやった。朽葉は口ではこんな風に言っているが、この子の耳も頬も俺と同じように真っ赤になっている。強がってるんだろうと思うと微笑ましさを覚えるが、だがその強がりが風邪をひかせてしまう原因になりかねない。少し真面目な口調で言うと、朽葉はうぐ、と俺の正論に一瞬ひるんだ様子を見せた。
「つ……冷たく、ない。そもそも私は剣士だ。こんな寒さに負けていられない!」
「剣士の前に可愛い女の子でしょ? 俺の上着でごめんけど、羽織っときなよ。首にも何か巻いておかないと冷気が入りこむし」
「お、女であることは今は関係ない!」
「関係あるよ。嫁入り前の女の子は身体を大切にしなさいって沙門さんも言ってたよ」
「沙門様がそんなことを……」
うぐぐ。俺の言葉は余計に彼女を追い詰めてしまったらしく、きまりが悪いような、恥ずかしいような顔をする。朝日が射し込みはじめたおかげで、じわじわと指先に温かさが宿る。同時に、朽葉の若葉色の瞳も光が溶け、輝き始めた。
固まってしまった朽葉は、沙門さんの教えか自分の信念の間で悩んでいるようだ。俺がさりげなく言った「可愛い女の子」という言葉は一切脳内に残ってくれていないらしい。その事実に半分凹み、もう半分で安堵する——きっと俺は、朽葉のそういうところが好きなんだろうから。
「沙門さんを悲しませたくないなら、大人しく俺の上着を羽織ってなさい」
先生のように言いながら、俺は橙色の着物を彼女の細い両肩へとかけてあげた。未だに悩み続けている朽葉の心中に、少しでも着物の温かさが滲んでくれたらいいな、なんて淡い期待を抱いている。
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いろいろ調べずにかいたけど朽葉のおめ目何色でしたっけ
あまつきは心理描写(というポエミー)が好きです
ひさめさん素敵ですよ〜〜〜〜