BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■かわいそうだと愛しておくれ ( No.795 )
日時: 2014/03/26 22:55
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: 35AN48Qe)

 柔らかい、と素直に感嘆した。白く柔い肌に頬ずりをしながら、敦子のバストは何カップだったかなぁ、と思いを巡らせる。この前のクラブの後に「室ちーん、また大きくなっちゃったぁ」と肩を落としていたはずだ。F以上ということは、わかっているのに、そこから先はどうも記憶が曖昧で困る——心臓が壊れそうなぐらいの緊張感の中で、そんな下卑たことしか考えられないというのは、淑女として如何なものだろうか。淑女、と自分を形容することに苦笑が出てしまう。ひとつ年下のチームメイトを、同性の子を、無理やり押し倒しておいて何が淑女よ、まるで獣よ。そう叱咤する自分とは別に、指先はどんどん甘い世界を求めていく。
 好き。すきすきすき好き。大好き。
 たくさんの好きで占められた彼女の身体に触れていく。紫色の透き通るような髪の毛は、今は部室の中にあるベンチの上で花のように広がっている。長い睫毛は恐怖のためか、ふるふると震えながらも綺麗に上向きになっていた。もしかしたら寒いのかもしれない、なんて笑えちゃうほどの余所余所しい期待。同性の先輩に襲われて、身ぐるみを剥がされて、それで余裕でいられる女子なんているはずがない。ただただ怖くて、震えてる。指先でつん、とブラの中央にある小さなリボンをはじいた。びく、と極端なほど揺れる肢体。怯えている、のだ。やはり。そんなことに今さら動じるほど私にも余裕がないけれど。
 はっ、はっ、と野良犬のような荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと、ブラウスの続きを捲っていく。脳内はうすぼんやりと桃色の膜が張っていて、それは車酔いのときみたいに、私の思考回路をふわふわにさせた。いつか敦子が綺麗だと褒めてくれた桃色の指先で、丁寧にていねいに最後のボタンをはずして、


「ごめ、ごめんね、室ちん」


 そこで、彼女の嗚咽が、つう、と鼻の先で弾けた。はて、私は敦子に謝られるようなことをしたかしら。むしろ今は私が彼女に謝るべき行為をしてるはずなんだけれど。ふわふわとしていた脳内に、だんだんとはっきりした光が射してくる。気づけば私は額やら背筋やらにびっしょりと冷や汗をかいていた。キスするために塗っていたリップは、唇をかみしめ過ぎたせいか、ほとんど乾きかけている。
 顔をあげた。潤んだ、アメジストみたいなきらきらとした瞳に視線が触れる。こわさと、あまさと、うつくしさが全部とろけた瞳。色づいた唇はふんわりとピンク色で、おいしそうだと思った。たとえ今、敦子がしている表情が泣き顔だったとしても。その美しさも、求めようとした甘さも変わらずにそこにあった。


「こんな……こんなふーに、なるまで、む、室ちんのこと、う……ううぅ」


 その先はだんだんと嗚咽に飲まれていき、私の耳には届かなかった。言葉の続きは、知ろうと思えば知ることが出来た。私は自慢じゃないけど他の人よりも聡明だ、だから敦子の考えていることもとっくのとうに悟っている。そのきらきらとした瞳が訴える怯えの意味を、既に私は体全体で飲み下している。
 でも私は揺るがない。にっこりと、それこそ悪魔みたいな微笑みを浮かべて、だいじょうぶだよなんて嘯いてみせる。もう一度ぎゅうと、彼女の熟れた身体を抱きしめる。冷たかった肌を慈しむように撫で、唇を押し当てた。
 だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。私はあなたが大好きだから。私という存在をありったけをこめて、彼女に繰り返し囁く。だいじょうぶ、だいじょうぶ、私が愛するよ。私の今までも、これからも、全部捧げてあなたを愛するよ——泣いている赤ん坊をあやすように、だけど胸の奥に潜む肉欲の炎を消すこともなく、私は彼女の唇にキスをして、また同じように笑った。


「敦子のことが、すきだよ」


 呪いのような、それを呟く。














****

氷紫でゆりゆりゆりーぬ
むっちゃんは「こんなになるまで悩ませてごめんね、でも応えられないんだ。こうすることで貴方が幸せになるならこうするよ」ってスタンス。氷は「ああこの子は私が求めてることもわかってるし振り向いてもくれないんだ、じゃあそのやさしさに嘘みたいに浸らせてもらおう」ってスタンス。
そろそろ卒業ですね