BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ■本日ミサイル飛行無し ( No.797 )
- 日時: 2014/04/02 01:46
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: 35AN48Qe)
- プロフ: ロス→アル
失恋した、と素直にアルバさんは俺に述べた。最低限かつ非常にわかりやすい説明だ。普段はどんくさくて遠回りな彼にしては賞賛すべき進歩だと思う。
傷心旅行についてきてよ。
嫌ですよ、春休みなのに。
お前ぐらいしか頼れる友達、いないんだよ。
……いいですよ。じゃあ、近場でいいなら。
そんな電話のやり取りの後に俺が案内したのは、彼と俺と家からちょうど2キロほど離れた山の麓の公園だった。勿論だが県内だし、電車やバスを使う必要もない。徒歩でのろのろと、日の落ちた遊歩道を2人で歩いてやってき来たのだった。
案の定アルバさんは「本当に近場だなオイ!」と華麗なツッコミをしていた。彼のツッコミはやはり脊髄の奥まで浸透している生まれつきのものなのだなと理解する。お互い金もないしちょうどいいでしょうと宥めて、子ども用の小さなブランコに腰かけた。アルバさんはそれもそうかいやでも……と何ともいえない顔をしながら、結局俺の隣のブランコに渋々座った。
桜も咲き始めた今日この頃だが、空気はしっとりと肌寒い。この寒さは花冷えというのだと、アルバさんが何気なしに呟いた。俺の心を見透かしたみたいな態度に不覚にも安堵してしまう。
「ミサイルが、落ちたらいいんだ」
街灯に光が点き始めた辺りで、アルバさんはそう口火を切った。ただでさえアホな面は泣きすぎてぐちゃぐちゃでみっともない。鼻は赤くまるで歌に出てくるトナカイみたいに膨れている。どれだけ泣いたんですか、と聞いてみるも返事はなく、俺はそれ以上追及する気も起きずに静かにブランコを揺らした。
「そしてそのミサイルが、幸せなあの子の頭上に落ちたら、なんて考えちゃうんだ。今の僕は」
「……ああ、その子彼氏が出来たんですね。アルバさんが告白する直前のタイミングで」
「何でわかったの!? ロスってやっぱり頭がいいんだね!」
ぱあ、と一瞬だけ嬉しそうに表情が和らぐ。別に喜ぶところでも感動するところでもないと思うのだが、少しでも彼の気持ちが明るくなったのなら万々歳だ。
そこから俺の頭がいいことについてのトークが始まると思いきや、すぐにアルバさんはしゅんと両肩を落としてしまった。畜生、このまま笑い話に持ち込んで有耶無耶にして帰るつもりだったのに。マフラーもコートも今日は持ち合わせていない俺は内心舌打ちをする。桜が咲いてるからって、春が来たからといって、浮かれて軽装するんじゃなかった。
ぐしゅぐしゅと花粉症交じり(と思っていたがそうなのだろう。、生憎いまのアルバさんは目も泣き腫らして真っ赤なので花粉症かどうかはわからない)に鼻を啜ると、彼は「それでね」と続けた。
「で、ミサイルが、落ちて」
「はい」
「全部ぜんぶ消えちゃえばいい、って思うよ」
「はあ、全部ですか?」
「……うん。僕があの子のこと好きだったことも、今のあの子の幸せも。全部ぜんぶぜーんぶ! ……でも世の中そんなに甘くないから、困ってる」
僕が祈ってもミサイルなんて落ちないんだ、と泣きべそアルバさんはぼやく。
はあまあそうですよね、とたいして興味もない俺は気の無い返しをする。
寂れた公園にある古いブランコだ。塗装を怠り茶色の錆びが剥き出しのブランコにはあまり長時間いたくない。ならベンチにでも座れという話なのだが、アルバさんはここから動くつもりはないようだし、2人で来ているのにそれぞれ別の場所にいるなんて何か変な話だろう。
「ミサイルが落ちてきてくれたらいいのに」
「はあ」
「全部全部消えて、明日も明後日もしあさってもこれからずっとずっと無くなって、現在この瞬間も消えちゃって、そしたらこの苦しい気持ちも消えるのにって」
「はあ」
「…………そうやって、ミサイルのことばっかり考えて、苦しいよ」
「ミサイルマニアみたいな発言になってますけど大丈夫ですかアンタ」
「誰がミサイルマニアだ! 今まで生返事しかしなかったくせにそこだけ拾うなよ!」
ひどいよ、僕は真面目に話してるのに——口ぶりは怒った様子のアルバさんだが、自らの汚い感情を吐露してみて多少は気が変わったらしい。先ほどより目の赤みはとれ、口元に笑みが浮かんでいる。この人の思考回路は単純だからなぁ、と一人ため息。
勝手に元気になられてしまい、こちらとしてはこの寒い中歩いてきた甲斐もない。意趣返しのつもりでアルバさんのマフラーをぐいと引っ張り、首を軽く絞める。「げほぉ!? 何だよ突然痛い痛い痛い!」舌を出して驚く様は非常に滑稽である。
「アンタのくそつまらない童貞臭い失恋話およびミサイルハァハァ話に付き合うために2キロ強徒歩で付き合わされた俺の思いを暴力で表してみました!」
「暴力って認めた! この人暴力って認めた!?」
「あっいけない! 口と手と足が滑った!」
「いや絶対わざとだろ————げふっまさかのローキックッ!?」
苛立ちついでに俺の長い脚を利用して、彼の無防備な腹にローキックを決めさせてもらった。ローキックとは言い過ぎた、ただのブランコの勢いに任せた回し蹴りだ。
しかし遠心力も加わった俺のキックは相当なものだったようで、アルバさんはげほげほとえずきながらその場に転がった。四肢をついてうずくまる姿はなんというか嗜虐心をくすぐられる。
「どうですー? 俺のキックでミサイルが落ちてくる夢からやっと覚めきれましたー?」
「ごほ、げほ…………ロスお前……僕じゃなかったら死んでたぞ……」
「嫌ですね人聞きの悪い。俺はアルバさんを殺すつもりなんて毛頭ないですよ? 勿論、アルバさんみたくミサイルが落ちてみんな死ねと念じたこともないです!」
「その話を掘り返すな! ……うええ、気持ち悪い」
「吐きますか? ねえ吐きますか!? 待ってください今スマホを」
「撮るなわくわくしてカメラモードを一番いいのにするな! ……てか、ロスだってさあ」
涙目のアルバさんは、そこでいじけた表情になった。四つん這いの姿勢でそんな顔されてもという気持ちになったが、その言葉の続きが気になった。アルバさんのくせに俺を惑わせるなんて身の程を弁えてほしい。なんですか、と大人しくその続きを待った。
俺が何もしないのを確認し、彼は、ロスだって、と唇を尖らせた。
「……お前だって、そういう時ぐらいあるだろ。ミサイルが落ちて全て消えちゃえ、とか。もう一度生まれ変わりたい、とか。そんな時ぐらい、」
「ないですね!」
「即答!?」
「はい、ええ、そりゃもう全くないです!」
ミサイルを俺たちに撃ち込むつもり満々だった目の前の犯罪者(未遂)は、あわあわと露骨に慌てはじめる。えええ、僕だけなの、こんなこと考えちゃうのって。狼狽する様子は可愛らしくも思えたが、やはり四つん這いだと、なあ。ダンゴムシみたいに蠢かないでください、と手を踏ませてもらった。
時計を見ると午後8時を回ったところだった。そろそろ帰らなければ、親のいない俺はともかく、過保護な母親を持つアルバさんは叱られてしまうだろう。おおよそこの人のことだ、携帯なんて持って来てないだろう。どうせ失恋旅行に機械類は不要だなんてよくわからない理由だ。
「……ほら、立ってください。もう暗いですし、アンタも傷ついた心を癒せたでしょう。帰りますよ」
「最後に手をぐりぐり踏みにじられて何を癒されたっていうの僕は!」
「うっさいですね。ミサイル撃ち込みますよ」
「さっきの発言と180度逆のこと言ってるこの人!」
「俺はアンタみたいに、ミサイルなんかですべてを終わらせようとはしませんよ。勘違いしないでください」
俺の言葉にまた泣き出してしまったアルバさんの手を、不本意にも握る。俺が踏んだせいで土がついたのか、やけにかさついた手だった。しかし子どものせいか妙に温かい。俺の手が冷たすぎるのか、この人が元々温かいのかなんて、どうでもいいことだった。
ほら、と導くように手をひいてやれば、ふええと泣きべそをかきながら着いてくる。その頼りない姿になぜか安堵した。ミサイルが落ちてこないこの状況に、ミサイルを撃ち込もうとしなかったこの人自身に。
だって、ミサイルなんかに奪われたくない感情が、俺の胸にはあるのだから。
「……さて、ちゃっちゃと帰りますよクソ失恋ヘタレ野郎さん!」
「何で癒えてきた傷に塩塗ったの今!?」
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卒業すか あーしますよ はいしますします(しゃくれ顔)