BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

第三十二話・・・卑猥で狂おしく、愛しい愚民共め。【前編2】 ( No.149 )
日時: 2011/04/23 19:39
名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: FvJ38Rf9)

「禅さん」強い力の込もった声を恐る恐る漏らす優大。
「・・・そんなに緊張しないでも良いのに」一方の禅は先程の笑顔を保ったまま流暢に話す。
「あの・・・どっちで呼んだら良いんでしょうか?」
「何、僕が苗字を変えてる事に違和感を持ってたのか・・・。まぁ、離婚したから苗字が旧姓になったのは当然分かるだろうけど___」突如、優大が顔を輝かせて口を挟んだ。
「ああ!!そういうことか!!僕てっきり犯罪でもしたのかと・・・」禅は遂に込みあげてくる笑いを抑えきれなかった。
「ははははっ・・・。君は視点がずれ気味だね・・・というか僕に相変わらず似てるね・・・。サスペンスの観すぎじゃないのか?」
「いいえ、最近観てませんけど」
「そういう問題じゃないでしょwww」ついに禅の笑いは泣き笑いへと変わる。ついに僕も狂ってきた、と禅は自嘲気味で呟いた。
「そっ・・・それより僕の質問の答えを!!」自分の情けなさに顔を赤らめながら語尾を強める優大。
「はははっ・・・。そう言いながらも僕の答えを遮ったのは君だろ?」もう自分がおかしくなっちゃうからやめてくれ、笑いが止まらない禅は必死に言葉を紡いでいく。


やっと笑いが治まったところで禅がいつもの調子で口を開く。
「まぁ、沢村副会長でも良いよ、呼びやすいなら」そう言って微笑みかける姿はまるでアイドルのようで。女子ならこの笑顔に胸打たれるに違いない。男子である優大でも心が揺れ動くのだから。





しかしこの直後、緊張が再び戻ってきた。寧ろ先程より張詰められた、ぴん、と伸ばされた糸の様な硬直が。





「今回君を呼んだのは理由を説明しようと思う」その姿は何処か冷たく、威厳のある“かつての姿”を想像させる。
「半年前の事、謝罪しようと思って・・・さ」
「良いんです。さっき謝罪してくれたじゃないですか」
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これは半年前、優大が大学にいた頃に遡る。優大が大学を中退する4ヶ月前。優大が大学を中退するきっかけとなった“事件”。
優大にとって、これが無ければ今は亡き父の工房を継ぐことなど無かっただろう。

事件発生直前、優大は廊下にいた。当時仲の良かった友達と他愛も無いことを話しながら。その友達は、少し変わったどちらかと言うと人に好かれない人間だったが、優大が大学に入ってただ一人の友達だった。
「・・・それでさ________」


優大が口を開いた刹那、思いもよらない事が起こる。優大にとっても、友達にとっても。









隣にいる友の気配がしなくなった。と言うよりは事実、優大の眼中にはいなかった。本当に一瞬だった。






自分が鈍感だと言う事は重々承知のうえだが、恐らくあの神速とも呼べる速さは、拓夢でも気づかない事であろう。




しかし、友は目の前にはいなかったものの、すぐ後方にいた。




倒れている、青ざめた一人の人間が。先程まで当たり前のように話していた人間が。確かに其処に。




後ろからナイフで刺されたような痕が見受けられた。犯人も手加減したのであろう、ナイフが刺さっているところは幸い肩であった。
副産物としてあたり一面に広がる紅い液体に気づいたのは、それからしばらくしてからだった。

「おい、聞こえるか?大丈夫か!?」廊下中に優大の小さい声が微かに響く。
「・・・・うっ・・ん・・・大丈・・・夫・・・・かな」無理をして引き攣った笑みを浮かべる友。端正な顔立ちが痛みに歪む。
「無理しなくていいから!俺のハンカチで傷口塞いどけ」幸運な事に優大が持っていたのはガーゼハンカチだったため、止血にはこれ一つで十分なようだ。
「・・・あ、ありがと」あどけない笑みを必死で作り上げるその姿が、優大にとってとてもつらい事であり。
「あ、先生呼んでくるから、絶対そこに居ろよ!?」小さな声でそういった優大だったが、今まで出した事も無い全速力で職員室に駆けて行った。
・・・・『廊下は走らない』の張り紙を風で飛ばす勢いで。









職員室にはなぜかたくさんの生徒がいた。


「____そうか、菅野の声が聞こえた、と。今現場に行くから」先生が僕の事を言っている。早く報告しなければ______


「先生_____」報告は先生に遮られる結果となった。
「菅野、沢村から聞いたぞ、私も今現場に行くつもりだったんだが・・・」


「?」



「何、吉岡を“刺した”のか?」




「は?」





「沢村が確かに反対の校舎から見た、と言っているのだが・・・・。」





硬直してしまった。何も言えなかった。僕は犯人じゃない!!言いたかったのに。錯乱?そんな一言では済まされない脳内の葛藤が、其処にはあった。
そんな、悪夢のような夏の日。