BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

第三十四話・・・卑猥で狂おしく、愛しい愚民共め。【後編2】 ( No.164 )
日時: 2011/04/29 18:14
名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: UISKJ4Eq)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=nBY8BrWt5QU

対峙。


一人は、目の前にいる者によって深い傷を負い、結局ひきこもりと化してしまった友を想い。

一人は、今の自分の醜い心を嘲り笑い、過去の自分と愛する者を想い。



二人は意味は違えど、互いに涙を流し。
瞳から零れ落ちる宝石一つ一つに愛しいものへの思いを馳せながら______








「僕は『嘘』を知るもの」突如、禅が優大の方向を向いて囁く。
「君は『真実』を知るもの」



「・・・・」優大は何も発せず、禅に背を向けたままだ。聞こえていないのか、続く言葉を悟ったのか____それは知る由も無い。



「さて、君と僕、勝つのはどちらだろうか」




禅の瞳には嘘ではない、真実の涙が一粒、舞い降りる桜のようにはらり、はらり。




「________?」優大はくるりと禅の方を向き、首を傾げる。





「君になら分かると思________」刹那、優大が口を挟む。
「僕には分からないんだ、沢村副会長が_____」優大は荒れる呼吸を整え、もう一度言葉を紡ぎ始める。
「沢村副会長が、此処まで僕の古傷を抉り出そうとする理由が」







「__________」安心したように、静かに微笑む禅。
「君の今の思いを知れば、自分の過去を取り戻せる気がした」そういい終えた後、ほんの少し笑いの質を悲しげなものへと変化させる。






「なぜ僕を_____________」困ったように目線を泳がせ、泣かないように、泣かないようにと必死で言葉を紡ぐ優大。


「僕と君は似てるんだ、でもね、正反対なんだ。だって君は『真実』を誰よりも知っているから」その一言一言が重く、鋭く。


「僕は自分で犯した罪と言う名の『嘘』を知っている」


「でも、僕と似ている君の『真実』を知る事はできない。知る事ができれば、僕はもう少し救われたかもしれないのにね」
「_______!!」



もう一言呟こうとした禅だったが、優大に遮られてしまった。優大の核心を突く、『真実』を象徴するかのような力強い一言によって。




「僕の勝ち……とでも言いたいんでしょう」その表情には、先程までは無かった笑みさえ浮かべていた。



「『嘘』を知る者は『真実』を知らない。でも『真実』を知る者は『嘘』を知っている______知らなければならない、と言いたかったんでしょう」拓夢達には滅多に見せぬ、威風堂々たる笑みを浮かべ、優大は言葉を紡ぐ。










そして禅は“『真実』の様な『嘘』”を語る。
「君と久々に会ったこの前、君の心は『弱さ』が覆い尽くしている気がしたんだ。かつての君の芯の強さが確実に消えていた」



「君に会えば、つい最近までの僕から変わる事が出来ると思ってたのに」



「貴方こそ僕の事なんて言えない」
「____!!」



優大は声を荒げ、語尾を強め、『真実』を語る。
「僕と会うことによって自分が変わるとでも思ったのか!!?それじゃあ自分が犯した罪から逃れているだけじゃないか!!ちっとも反省して無いじゃないか…っ!!」
「貴方は今も『嘘』を吐いている」
「__________」禅は何も言えぬまま、溢れる宝石を地面に散りばめる。


「今まで起こった事件も、貴方が僕の工房の前に店を作ったのも、今此処に居る事も、偶然じゃない、必然だったんだ」


「貴方はいままで犯してしまった罪から更生するために、僕の近くに身を置く事にした。被害者である僕に謝る事で、少しでも自分が犯した罪の重さを自覚したかったから。決して『変わろう』なんて甘ったるい事は考えてなかった、そうでしょう?」








「貴方は僕に負けてなんかいない。貴方だって自分しか知らない『真実』が、誰にもいえない『真実』があるじゃないですか______」







優大の優しさが、一言一言紡がれる『真実』が、禅にとっては苦しくて、苦しくて。













「菅野優大」





「………?」





「何も言わないでくれ、これ以上『真実』を洗いざらいにしないでくれ」




「すいません、感情がこもり過ぎて、貴方の傷を深めてしまった」





「そうじゃない、僕が言いたいのは“君は罪な人間だ”と言う事」





「_____________」






「本当は知っているんだろう?僕が罪を更生するために被害者の中でもわざわざ“菅野優大”を選んだ理由を」






この沈黙が快いかのように、禅は優しく囁く。






「僕は君がこの事件の心の傷のせいで大学を辞めた事を知って_______」





「『自分が直接被害にあったわけではないのに……』」





「『なんて友達思いの人間なんだろう』って、久々に感動した。十六年ぶりに、人の為に涙を流した」






「僕が本当は一番伝えたかった事、それは」











その涙と涙で赤く染まった頬は、世界中の誰より切なくて、儚くて。













「僕は知らない内に、君の事……好きになってたんだね」




「______って事」




乙女のように恥じらいながらくるりと背を向け、別れの言葉も言わぬまま去っていく姿は、どこか拓夢に似ている気がした。





優大は禅に届かない微かな声で一言囁く。





「         ごめん           」










______こんな話、虚には言えそうも無いな…。涙で顔が赤いの、どうやって言い訳しようかな。……『映画館に行った』とか良いかも。


そんな『嘘』を思索しながら、菅野優大はとぼとぼと家路へと戻っていくのであった。



「虚しいね」



その一言を噛み締めながら。