BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 第零話(1)・・・永遠の二位 ( No.187 )
- 日時: 2011/05/29 15:35
- 名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: UbyZEBNe)
- プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=JLbzckm4u8Y
9年前
藤堂虚は、絵に描いたような完璧人間であった。
___完璧人間、と一言で言ってしまえば頭の固い眼鏡少年という先入観を持っている人が大多数だと思うが、藤堂虚は柔軟且つ冷静な脳と並外れた運動神経、そして人々を魅了する端正な顔立ちと優しい笑みという人間の良い要素を全て持っている人間であった。
本当の完璧人間とはこのような人間のことを言うのであろう。
小学校の頃から羨望の目を受けていた藤堂虚は、中学生になりその予想不可能なポテンシャルを益々開花させていた。
当時あまり普及していなかった携帯電話をさも当たり前のように使うその姿は、女子ばかりではなく男子をも魅了し_______
そう、藤堂虚は“只管に”美しい人間であった。
城ノ内源にとって、その姿は妬ましかった。
邪魔な人間であった。
削除すべき、偽善者の塊。
源にとっての藤堂虚は小学校の頃から唯一の親友でもあるにも拘らず、そのような目でしか見ることができなかった。
_______源は『永遠の二位』だった。
しかし、源の精神年齢は、確実に虚の上を行っていた。豊富なボキャブラリーと、『隠さざるを得ない』辛い経験は、源をストイック且つ冷淡な人間へと変えていた。
先生からも生徒からも一目置かれ、強力な防御壁を張り、自分の理想の世界を作り上げていた。
………端正な日本人離れしたその静かに語る瞳は、誰よりも悲しげだった。
背中合わせの一位と二位は、親友であり、最大の妬ましい敵。
「源」不意に声を掛けられ、源は強制的に現実世界に引き戻された。
「何だよ?」鬱陶しそうに、一言一言をもの惜しげに紡ぐ源。
「お前が今読んでるの、何だ?」そう言って屈託の無い笑顔を浮かべながら好奇心に満ちた一言を放つ。
_______憎たらしい奴。お前こそ既に読んでるくせに。
源はふと、そんな事を頭に過ぎらせた。
「あぁ、これ?ゲーテの『ファウスト』だよ」
「流石お前は見る目が鋭いな、『少年ウェルテルの悩み』とかを選ばないところ辺りがお前の慧眼を象徴してる」虚は偽りなどという言葉が存在しないかのように源を褒め称える。恐らく虚も読んだ事のある本なのだろう。
「あれは既に読んだからな、名作には早いうちに触れろとか親に言われてさ、小二の頃読んだ」そう言って一息吐いた源は続ける。
「『ファウスト』は非常に面白い。ゲーテが六十年以上かけて作り上げた文学史上最高傑作とは、決して大袈裟ではなくまさにその通りだと思う」
「うんうん、分かる。何だか懐かしいな……」虚は少しだけ過去の幻想に浸りながら大袈裟に相槌を打つ。
「お前のその一言は僕を軽蔑しているようにも捉えられるぞ」話の全てを打ち砕く、冷酷な慈悲無き一言。
くだらぬプライドのぶつかり合い。
中学生とは、そんな程度である、悔しいが。
偽りと真実はどちらが勝つのか。そんな見つかる筈も無いつまらぬこと(綺麗事)で衝突し、傷つき、新たな道を模索する。
青春は単純作業。楽しいことなど全て単純なことだというのに。
皆が複雑で、歪んだものに憧れるこの時期。
真実は正しくないのに、人生が変わるのはなぜかこの歪んだ青春期。
何故かというと。
真実の方が偉大なのに、それに気づかないからである。
逆に言えば、偽りの方が大きく、正当化して見えるから。
そう、この話は、くだらぬ会話で終わるものではないのである。
藤堂虚と城ノ内源。唯一の親友で唯一の敵。
この二人が映し出すのは、人間の本能。
単純なのに複雑で、短いのに長くて。裏返しなのに背中合わせで。
だから第零話は終わらない、永遠に。
ゲーテのように、永遠に。
It's a long lane that has no turning.