BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 第零話(2)・・・【対義語からなる】仇と婀娜 ( No.198 )
- 日時: 2011/06/12 16:30
- 名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: nO1e2KZX)
- プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=Chwdpd27CwQ
9年前
「俺、悩みがあるんだ」そう唐突に耳元で語りかけてきたのは、紛れも無く藤堂虚だった。
その一言が源にとってどれだけ憎い一言だったことか、想像もつかない。
下らない悩みで無いと発する事のできない___寧ろ悩みと呼べるものでない時しか発する事のできぬ___余裕に満ちたその一言。
苦労を積み重ね、学年の頂上に君臨した源の努力を一瞬にして破壊させた当本人が、今目の前で上機嫌で能天気な笑みを浮かべていることも含め、虚の存在全てが_______
許せなかった。憎かった。
そしてその感情を無理矢理押しつぶし、名称上の「友」でいる自分自身も、許せなかった。
でも僕は、自分に甘いから、
自分に溺れて生きてきたから、
その感情を断ち切る事などしたくない。
恥ずかしいから。
______断ち切れないから。
自分すら憎く感じていた事に、気づいていて、気がつかなかったから。
「何故僕に悩みなんて話そうとした……?」蟲の居所が悪いのにも拘らず、返事をしてやった事に感謝しろ、と言わんばかりに源は言葉を返す。
「えっ?いや、だって俺、友達いないから……」さも当たり前のように嘘を吐く虚が、ますます憎く感じられた。
「僕の前で嘘を吐くなと何度言っている……!」憎悪が満ち溢れ、感情を抑える事でやっとの源には、全く嘘を吐く表情で無い虚の純真な瞳など、視える筈も無く。
「そりゃ俺だって何人も話したりしてるし、立ち居地的には友好的な位置には居るけど____『本当の友達』って言える奴なんて一人も居ないし」
刹那、虚の表情が少しずつ、少しずつ、歪み、名前の通り虚ろな表情へと変貌していく。
「俺はっ_____自分が憎いんだ。周りで偽善者の如く振舞って、人気を得ている仮の自分が」虚の少女のような透き通った指に一滴の宝石が落ち、そして虚の心までもが堕ちてゆく。
「だから……お前に憧れてるんだよ、尊敬してる。自分から防御壁を作って静かに、淡々と自分と向き合うその姿を」
城ノ内源は、生まれて初めて、心から衝撃を覚えた。
『天才少年』とまで謳われる藤堂虚に讃えられた、という衝撃ではない。
自分と全くと言っていいほど、同じ人間であった事に心から驚いたのである。
憎んでいたのは虚であり自分であったことに。
そして虚は云う。
「僕は……天才なんかじゃない、只の大馬鹿者だ」
心の底から、深く刃物で抉り出される感覚だった。
「源、知ってる?エマーソンの名言。『自らの思想を信じる事。心の中の自らの心理を信じる事。それが天才である』……もう俺は、この時点で失格なんだよ」
「そんな俺の悩み、聞いてほしいんだけど」
_____憎たらしいほど頭の良い奴だった。