BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 第零話(3)・・・t・a・s・k ( No.205 )
- 日時: 2011/06/26 13:51
- 名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: hFExu/cI)
- プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=cLhOSVEtf00
【9年前、春、学校の何処かで】
案外、今まで躍起になって守り抜いてきた『スタンス』などと言う言葉は甘ったるいものだったのかも知れない。
自分のプライドを保つためのドーピング的役割にも拘らず、第三者によっていとも簡単に破壊する事のできる、防御壁としては弱すぎるものであった。
それに縋っていた自分は馬鹿だったのだろう。
気付かなかったのだから。
自分の弱さに。
世の中の心理を知り尽くしたような口をしておいて__確かに世の中の心理はある程度知っていたのだろうが__
自分を知らなかった。
『真理』を知らなかった。
他人の手によって……しかも自分の恨めしき人物によってそれを知る事になるとは。
全く、城ノ内源も廃れたものだ。
だから。
“自分の知る”『常識』くらいは守り通すのが筋と言うものだろう。
自分の心が滅び、朽ち果てる事の無いように。
僕はその常識範囲内に従い、藤堂虚の言葉を素直に受け入れる事にした。
『スタンス』を失った代わりに_____
『真理』を手に入れる為。
「悩みなら早く言え、時間を無駄にしたくないならな」シリアスな話題になる事位、知っている。思春期の心情と言うのは大抵矛盾しているものだ、虚もその事くらいは悟ってくれる筈だ。
「祖父が……死んだんだ」
『祖父』と言う慣れない言葉を噛み締めながら、一言。成長過程の喉を震わせながら。
「だから何だ」
「……お前は……優しいな」
「____無駄口を叩くな、続けろ」
「分かったって……。祖父が死んだばっかりに保険金目当てで離婚話持ち込んできたんだよ、もうそれで家はぐちゃぐちゃで______っ」
___泣いてる事しか出来ないんだ。
そう言って、虚は悲しい、哀しい笑みを浮かべた。
桜色の唇を震わせる度に、地面に雫がはらり、はらりと舞う。
枯れかけの桜の如く、声を嗄らして。
「失望したぞ」
「…………」
「お前ってそんなに泣く奴だったのか、そうか」
そして源は言葉をゆっくりと紡ぎ続ける。
「_____僕は、そんな奴にたった今心を揺れ動かされたのか」
____虚に言葉を発する余地を与えぬまま。
「僕がまるで______馬鹿みたいじゃないか……」
「お前に話して……良かったよ」
そう言って、虚は静かにセーターを脱ぎ、ワイシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していった。
虚の無駄の無い純白の身体が露わになる。
……と思いきや。
予想を悪い意味で覆した。
美しい、いや寧ろ神々しい身体に、只管に真っ直ぐの直線が、
交差していた。
十字架の如く。
桜の舞うなかの十字架は、不釣合いなものである。
「馬鹿みたいだろ、俺も、そしてお前も」
「藤堂家は代々有名な仏教徒の家系だったのにさ、母さんが違う宗教___まぁ、悪徳宗教と言っていいかな___に嵌っていって、その宗教の根元にある暴力団に金品を強請られたんだ、それで俺まで巻き込まれていってさ……っ」
___笑っていいよ、いっぱい、いっぱい。
___泣いていいよ、いっぱい、いっぱい。
いわなくてもわかるから。
おまえのいいたいことが。
おとななんて、だいきらいだ。
ぼくもそうだから。
先程と同じく、無駄の無い手順でワイシャツを羽織りながら、虚はあえて淡々と言った。
「俺は、お前が羨ましいんだ」
___俺は、お前になりたいんだよ。
そう言って、源にそっと笑いかけた。
「だから、茨城の叔父さんの家に引っ越すんだ」
厄から、弱い自分から逃れるために。
「何時、行くんだ」
「学校から許可はもらった。まぁ、家の闇なんて語れるはずも無いから、叔父さんも同行して『家庭の事情で』って言ったら案外すぐにOK貰えたよ」
「だから最後に、お前に伝えたくてさ」
虚は、そう言って源の頭の上にポン、と手を載せた。
でも源は決して抗わなかった。
今まで堪えてきた涙を溢れさせて、
生まれて初めて虚に心の内を打ち明けた。
「ありがとう」
そして源は決意した。
決して口には出さないが。
……僕は、変わってみせる。虚になってみせる。
思春期の、矛盾していて、冷酷で、甘酸っぱくて、
最高の青春を、虚に捧げる事を。
二人は最後に、こう言った。
「「お前なんか、大嫌いだよ」」
____そんな源と虚が高校で再会し、源が虚の気さくさを超越した明朗過ぎるお調子者になっていた話は、また別の話。