BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

第四十二話・・・脆弱と静寂、メルセンヌ数【番外編】 ( No.245 )
日時: 2011/08/02 18:30
名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: hH8V8uWJ)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=fN3GH1Hpgyo&feature=related

源に羞恥心を無くすための術を教えてもらったものの。
やはり羞恥が他人の影響によって隠せるものではなかった。
余りにも規模が小さいが為に逆に羞恥が増す、と言ったところであろうか。
とは言えども、悪いグループ、という他人も巻き込む話とは縁の遠い話であることを源も知っていたはずだが。


___なるべく人通りの少ないルートを通ろう。
努力して校舎裏までやって来た拓夢だったが、昨日の雨によって地面は悉くぬかるんでおり、限られたコンクリートの道を選んで進むしか無かった。
もう、ブラウスがはだけて純白の素肌が露になっている事すら気付かない。
……重度の鬱病か何かだろうか。
「ついてないなぁ……、此処も人通り多いしな……」独り言が静かに曇天の空に消える様は、余りにも虚しくて。
溜息しか心を休める術が無かった。


刹那。
「拓夢」

「はわぁふぇ!!?」
生温かな息が拓夢の首元を撫でると、拓夢は反射的に仰け反るようにして後ろを振り返る。

「顔色悪いぞ、大丈夫?」
「何だ、優ちゃんか、ストーカーかと思った……!」優大の心配を完全スルーした拓夢。
「お前心配しすぎだって、所詮男なんだから大丈夫だよ」何とか慰めるようにして諭す優大だが、正直今の無防備な拓夢の姿は明らかに本能を擽るものだった。
「まぁ、そうかもね___でも城ノ内先輩にも『女子にしか見えない』とか言われたし、さ」
「……そうかあの王子に言われたのか、流石にお前が心配するのも分かるわ」完全に同情してしまった。慰め作戦はまさかの自分の手によって失敗に終わった。

自爆。

「そういえば優ちゃん、眼鏡してないね」気まずい状況であるのを悟ったのだろう、拓夢の方から話題転換を試みてきた。
「ああ、長沼先輩に『眼鏡しない方が女子にモテるから外せ』って言われてさ、今日だけコンタクトしてる」確かに眼鏡を外した方が内面とは裏腹に凛々しい瞳が引き立つ気がする。
「今日だけなの?」
「いや、何ていうか違和感あるし、眼鏡が無いと拓夢に俺の事気付いてもらえないかな、なんて」頬を掻きながら照れ気味に話す優大の姿は、昔から変わらぬ可愛らしいものだった。


何だかんだで一段落話を終えると、知らぬ間に拓夢が担当であるメイド喫茶に着いていた。

「じゃ、頑張ってね」___花屋其処だから、と一言告げた後に、優大は静かにその場を去って行った。








「あ、美咲ぃ、拓夢君来たよ」
「やだマジで超可愛い!!女子にしか見えないんですけど!?」
「ちょっと超可愛いって、冗談抜きで拓夢君メイドになればいいじゃん!」
女子たちの本音丸出しの慈悲無き一言が降りかかり、ますます気分と共に頭が重くなる拓夢。
そんな暗雲を気にかけることなく、周りにわんさかと女子が蛆蟲の様に集って来る。










その時。
黄色い歓声の中で落ち着いた声が降りかかる。
「ああ、ちょっと其処退いて」


更に大きな黄色い歓声が上がり、頭が重くなるのを他所に、城ノ内源は拓夢の肩をそっと掴む。
「お前らさ、店始まるのにあと1時間位あるから他のところ行ってくれない?五月蝿い。耳障りなんだよね」






先程の黄色い歓声の残響が頭に響くほど奇妙な静寂が訪れる。
すると、「すいませ〜ん……」と気だるい声を漏らして女子たちが退散して行った。
___城ノ内先輩は静寂を呼ぶ能力を心得ているのだろうか?




しかし。
源が放った第一声は、情けなくて、脆弱で。
静寂とは言い難いものだった。
「ごめん、田丸」
「は?」
「いや、メイド喫茶の今回の主催者、僕なんだ」
「ん?」
「いや、だから、今回のメイド喫茶を仕切るのが、僕」
「え!?」
「さっきから返事が全部一文字だぞ、しかも顔色悪いし」
「大丈夫ですけど、え!?もう一つの喫茶店の方の担当かと……」
「二つとも繋がってて同じなんだよ、実は」
でもね、と再び言葉を紡ぐ源。
「僕は、メイド喫茶の主催者になりたくて主催者を希望したんだ、田丸がメイド喫茶担当になった、ってのは噂になってたし」

自分の事が噂にまでなるとは思いもしていなかったので其の面でも驚きなのだが。
それよりも。
城ノ内先輩という完璧にキャラクター性が明確になっている人が、何故メイド喫茶という灰汁の強い担当の主催者を希望したのか……?
天才は奇妙なモノを選びたがるのか?
それとも自分の為に__________?




何だか自分中心で世界が廻っている様な気がしてならなかった。
僕の半規管はきっと壊れている。
頭の痛みが増す中で、拓夢の脳内は完全に源に囚われてしまったようであった。
頬が熱い、熱でもあるのだろうか。

【メルセンヌ数の公式=2のn乗−1】