BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

第四十三話・・・吐き散らした警戒音【番外編】 ( No.256 )
日時: 2011/12/11 16:30
名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: YrsbvNhI)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=Q1xOwfrVM1o&feature=related

【回想・輪廻】

汚らわしい。
傷ましい。
情けない。

苦しいくらいに、自分が解らなくて、判る事すら出来なかった。
自分が進むべき道を照らす灯でさえも自分を裏切っているような気がして。

『恐れ』 『愛する』
『怖れ』
『畏れ』
『虞』 と
『懼れ』
『惧れ』

たくさんの『おそれ』と只一つの『あいする』の中で、何故人は『あいする』を選びたがる?
……愛は一つしか存在してはならないから。
自分も一つしか存在しないように、愛だって必然的に一つなのだろう。

じゃあ、その“一つだけ”の『自分』って、何なのだろうか。


それを考え、悩み。
そんな無限廻廊と言う名の輪廻を繰り返す、それが人生なのだと。
それを悟れるまでの苦悩の時を生きる者。
それこそが『自分』ではないだろうか。

___人生って言葉、青臭くて、偽者っぽくて嫌い。

そう感じている内(生きている内)は、自分が判ってもいない、解り、判る為のバイブルさえも掴めない明確な証拠であろう。

本当に『自分』を知ることが出来るのは、恐らく死ぬ直前、又は自分と言う存在が朽ち果てた後なのだろう。
そう思うと、人生が馬鹿馬鹿しくなって来る。
そんな僕はまだ自分を全く見出せてないんだろうな。




               *                  


「えと、城ノ内先輩」
「何だ?」
「まさかとは思いますが、俺の為に、メイド喫茶の主催者に?」
「僕がメイド喫茶の主催者になる事で何か気に食わないことがあったのか?」
「いや、そんなことは一切無いですけど、そのままの意味で」
「そうだよ、お前のためさ。何が悪い?」
「……別に、……」

何も悪くないです。寧ろ______

何て、言えないけど。
あくまでも先輩だし。

「ま、そんな所だよ、宜しく、拓夢」
拓夢が初めて城ノ内源に『拓夢』と呼ばれた瞬間であった。






【一時間後】



開店一分前。


「いらっしゃいませーーーっ!」
「違ぇよ拓夢、そうじゃなくて『いらっしゃいませ、ご主人様』だろ」
同級生である、同じく童顔に定評のある中条真織なかじょう・まおりに鋭いツッコミを入れられる。
「あ……間違えちゃった」
「そのミスは結構重大だぞ、本番間違えんなよ」
「分かってるって」

その時、開店の合図である鐘の音が福音の如く体育館中に鳴り響く。
途端に女性を中心とした大勢の客が雪崩込む様にして店内に入ってくる。

そう、この鐘の音は福音などと言う甘ったるいものではない。
警鐘と言う名のゴングなのだ。


「あーー!拓夢君と真織君じゃーーん!!」
「超可愛い〜!!」
「ねぇねぇ!王子先輩マスターなんだよ!!」
「本当だ、城ノ内先輩超カッコいい〜!!」
「ほらあそこにも_____」


黄色い歓声とくだらない戯言が拓夢の脳内を霍乱させ、頭の痛みがますます重く圧し掛かる。



「いらっしゃいませ……ご主人様?」最初の客の為、いまいち感覚が掴めず疑問符がついてしまう拓夢だったが、
「やばい可愛すぎる!!」と戸惑う姿が女子への好感度が上がってしまう結果になってしまった。

そんなノリで数人の客をしどろもどろしつつ相手にしていると、後ろから聞きなれた女子の声が聞こえた。

「ねぇ拓夢君?」クラスメイトの捺壁だった。
「あ?」
「メイド服どう?楽しい!?マジで似合ってるからさ」
「楽しいわけ無いだろ……?お前こそ仕事無いのかよ?」
「あれ?拓夢君知らなかったん?___あぁ、休みだったもんね、担当決めのとき___男子は全員参加だけど、女子は過去の先輩達に何かあったらしくて自由参加なんだよ?」その先輩達を恨むことしか、今の拓夢には出来なかった。
「全っ然知らなかった。俺も女子になりたかった……っ!」
「もうその格好してれば女子だよ、拓夢君の事知らない先生とかなら今の姿見たら完全に女子と間違えるって」

って言うか、と捺壁は続ける。

「拓夢君、凄く顔色悪いよ?保健室行ったほうが良いって」優大にも源にも言われた言葉だった。何故か言うのが女子だと説得力がある。
「それ言われたの3人目」
「じゃあ絶対行かなきゃ駄目だって!!」今の一言で確実に駄目押しされた、と思った拓夢はもう行くしかない、と決めた。

たかが保健室だが。






この店の主催者であり、マスターである源は、スーツとシルクハットという組み合わせをも完璧に着こなしていた。
「城ノ内先輩」
「おお、拓夢か、どうした?」
「やっぱり頭痛いんで保健室行くことにしました」
「そうした方がいいよ、本当具合悪そうだし。___拓夢がいなくなったら客足もかなり減ると思うけど、仕方ないよ」
「ありがとうございます」
「あ、そうだ」何かを思いついたように源は衝撃の一言を放つ。



「保健室まで付いて行こうか?」屈託の無い天使のような笑顔で一言。



「いいですいいです!一人で行きますから!しかも源先輩がいなくなるとますます客足減りますって」
「そんな事無いよ、だって今日保健の先生居ないもん」
「!?」
「だから、付いて行くって」
「あ、えっ、はぁ……」
拓夢の曖昧過ぎる一言を背に源は拓夢を無理矢理引っ張り、二人の影は廊下に溶け込んで行った。





丁度拓夢が優大と通った廊下を通り、重苦しい曇天の中を足並み揃えて小走りに進む二人は、姫と王子のようで。


それは余りにも一瞬で、儚げだった。



「……痛ぁ……っ!!」
地面に叩きつけられ、全身に衝撃が走った。
拓夢は思わず目を瞑り、苦痛の声を上げる。
何かの拍子で躓いてしまったようだ。


しかし。
その声は一瞬で空へと消えた。


「ごっめん……っ!!大丈夫か!?」慌しい様子で拓夢に必死で謝る源だったが。



源ですらも、
その声は一瞬で空へと消えた。



それらが同調したこの時は、明らかに不自然な、重い重い沈黙の一時であった。
拓夢が仰向けの状態で倒れているのに対し、源がうつ伏せで、且つ至近距離で拓夢を覆いかぶせるようにして倒れていたのであった。



視線が合い、気持ち悪いほどの沈黙が二人の鼓動を更に高揚させる。




「「あ、ごめん」」
二人が同時に慌しく起き上がり、同時に言葉を発した時には、既に遅かったのである。

そんな二人の様を、未だ剥がれ落ちたままの『廊下は走るな』と書かれたポスターは、妬ましそうに見つめているのであった。