BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

第四十八話・・・狂乱のコンチェルト ( No.296 )
日時: 2011/09/04 16:54
名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: bFAhhtl4)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=gXmU47lgNJo&feature=related

【   漣   】





それから最低限の準備を済ませた優大だったが、いつまでも拓夢のことが頭から離れなかった、どうしても。
虚や禅といった基本的に大人びた人間の周りでおどおどしている自分が想像できたのもあるが、拓夢が一人寂しがっている姿が脳内にこびり付く。源や真織といった親しい仲間も居るが、何故だか脳内が錯乱するようにもどかしくて、何も出来ていない自分を考えるとますます恥ずかしくなってくる。
虚という存在を畏れているのか、それすらも自分で判らない。
情けない自分=誇大妄想を掻き毟りながら産まれる、理想の存在が藤堂虚であることなど、とうの昔に知った筈なのに。

拓夢の部屋の前にそっと手紙を置いて、階段を降りたその後だった。


「準備できたか?」
二階から降りかかってくる落ち着いた声色。禅と話し合ったあの日も、こんな感じだったな__と少し懐かしみながらも、現実に引き戻されたような不思議な感情だった。
「__ごめんな、わざわざ付き合わせちゃって。禅ももうすぐ来るだろうからもう少し待ってくれ」
「…………」何故か、何も言葉が出なかった。





【   楔   】





___虚の車に揺られて、一時間近くが経つ。何が目的なのかも、具体的な場所も知らされぬまま、途中からはほぼ無言で小ぢんまりと座らせられている。
誘拐犯かお前は。
……とツッコむような空気ではなく。
虚が何を考えているのか、天然ゆえの無口なのかすらも全く判らなかった。
そんな中、唐突に口が開かれる。
「……おはよう……ございます」
後部座席の隣に座っていた禅だったが、寝ていたのだろうか、目を掻き毟って大きなあくびを一つ。
「あれ?僕のナターシャがいない?嘘だろ……!!着いて来なかったとでもいうのか!!」起きた早々発狂し始めた。
「どうしたんです……つかナターシャって誰ですか」
「優大、もうタメ口で構わないと何度も言っているだろう」
「質問に答えてくだ……じゃなくて……えと」
「もう敬語でいいよ……質問?ナターシャの事も知らないのかい?ナターシャは僕の肩に乗ってる可愛い妖精だよ、僕の今カノ」
「___厨二乙」虚が本能的に小さな声で呟く。
「虚さ、お前最近本当に源に似てきてないか?」禅が憐れみまでも込めながら問うと、
「___っ!!んな馬鹿な事があるか!!禅、これから一生俺をあいつと比べるなよ!!」と徹底反抗。虚にしては珍しく声を荒げて必死に抗ったので、優大は少しばかり違和感を持った。
「___まったく大袈裟な男だよ」捨て台詞の如く呟いた禅に対して舌打ちをした虚だったが。
「そんな事言ってる間に着いちまったぞ」そう言って門の前で車を止める。
扉が開かれると、緑色の風が頬を撫でる。土の匂いが秘めた感性を擽る。
これが本物の、故郷というものなのだろう。










「懐かしいな___________」虚の束ねられた長髪が風に靡く。田舎という名の秘境と相まって、絵になるような美しさだった。










そう、目の前は、
一面の、森、だった。
の中に、余りにも荘厳な寺のような豪邸が建立していた。
「此処_________?」
「……だから何だよ?」虚に理由も無く、怪訝そうに睨み付けられた。


藤堂虚は、人間も、家も、文化財モノだということを改めて思い知らされた。