BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 第纏話・・・ミエナイアシタ ( No.320 )
- 日時: 2011/10/01 15:49
- 名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: UVjUraNP)
- プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=wF1-t1b_tYU&feature=related
【 凍 】
その厳つい風貌の男三人と女一人は。
確かに、男三人の右手には金属バットを、
女の右手にはメリケンサックが携えられ。
感情を失ったかのように、無表情でケタケタと嗤っていた。
操り人形のように焦点の合わない瞳でふらふらと揺らめく姿は、『危険』という言葉しか当てはまらなかった。
虚は只硬直し、あちらこちらに目を動かしながら、その畏怖から逃れようと模索していた。
金縛りにあったかのように直立不動の虚の姿を見かねた男女四人組は、恐ろしいほど満面の笑みを浮かべながらゆらり、とこちらに向かってくる。
「……ひゃはぁっ……、何か可愛い男の子来ちゃったぜぇ、タイミング良いと言えば良いかもなあ……っはははははは!?」
指を鳴らしながら首を回し、顔を大きく綻ばせて高笑いを続ける男の姿を、虚は直視する事が出来なかった。
全ての行為が『遊戯』のよう。
本能的にそう感じた、感じて欲しくなかったのに。
「何黙ってんのよ坊や?何々、恐いのぉぉお?あたし達全然悪い人じゃないよ……なんて言っても意味無いのかなぁあ?!」
「兄貴、あの坊やなかなか良いガタイしてますよ?どうしますぅ、奴隷にしちゃうみ・た・い・な?」
「やめろよお前!そんな事言ったらあの坊やがブチ切れてこっちに向かっちゃうだろ?俺らがうっかり殺しちゃったら悪いだろうが」
次々に言葉を放っていくので全ての言葉は判別できなかったが、完全に『遊戯』の対象が自分に向かっている事だけは解った。
それと同時に解る事もある。
対象が自分に向けられる前に、誰か『遊戯』対象がいたと言う事。
そしてその『遊戯』が、既に終わってしまったと言う事。
__そうでなければ、態々玄関の前で屯している事も無かろう。
冷静にそんな事を考えている自分にさえも畏怖を感じるのだが。
「あの……何してるんですか」勇気を振り絞る、とはこういう状況に用いるべき言葉だと思う。
「何してるって……本当君純真無垢のボンボンだねぇ?お母さんに大切に育てられてきたのかなぁ、“それだったらごめんね”ぇぇえ!??」
__嗚呼、もう遅かったのか。
真っ白な白衣を着た天使の様な悪魔が、自分の目の前で微笑むのが見えた気がした。
にたり、と。
俺は今まで何のためにトップを目指して、家族の為に這い蹲って来たのか、その真意が完全に崩壊の兆しを見せていた。
笑えてくる。
「……まさかっ……お前達_____」
「あ〜あ、このまま気付かなけりゃちょっと悪戯できたのにさ。うんうん、解ってくれたのなら良いんだよ、兄貴どうする?始末しちゃおっか?」
「そんな縁起の悪い事を抜かすな馬鹿。可哀想だし折角ならいたぶってやろうぜ?」
そう言って、兄弟らしき男達の兄は、無許可で玄関の扉を乱雑に蹴破った。
それはもう玄関の重厚なドアがダンボールであるかの如く。
そして、玄関の下駄箱からか弱い雰囲気を漂わせる女性が一人、ごろり、と虚の足元にもたれ掛かってきた。
買ったばかりの果てしなく白い運動靴に、ぼたっ、と陰湿な音を立てながら赤黒い塊が落ちていく。
母さん、また新しい運動靴買わなきゃだね。
「じゃぁね、まだ生きてると思うからさ、後でまた来るね」
ばいばい。
見ていて寧ろ爽快な笑顔を浮かべて、四人の男女はさも当たり前のように『遊戯』に飽き、藤堂家を立ち去って行った。
「 虚 」
空虚の中で、ごろり、と横たわっていた母は、蚊の鳴くような声でぼそり、と一言放った。
「 お母さんね、もうお母さんじゃないの 」
そう言いながら、
真っ赤に染まったエプロンの懐から、茶色く変色した液体のこびり付いた袋を取り出した。
中には、何処までも真っ直ぐに白い、『粉』が入っていた。
「お母さん、遺産相続の件の後、妹が暴走族と関係を持ってる事を知っちゃってね、今じゃこんなザマよ___」
笑っちゃうよね。
嗤っちゃうよね。
哂っちゃうよね。
細かい事は何も教えてくれなかった。
教えてくれなくても、解ってしまう。
それが悲しくて、哀しくて、泣けなくて。
もう笑うしかないんだよ。
「母さん、もう良いから、言わなくて、いい、から、っ、もう__________やめ、てよ」
母の足元に縋り付いて。
最後に泣いたのは何時だったっけ。
おねだりしたのは。
一体何年ぶりだろう。
「そんな、事っ、言う、な、よ、俺は、今ま、で、何のために、一、番になって、きたと…思ってんだよぉぉっ……!!!」
「虚、もう之からは、お母さん達の為に笑ってくれなくていいから、一番なんていらないから、もう虚は」
わたしの、いちばんのむすこだから。
「か……あさん_________」
「お母さん、全然病院行かないでも大丈夫だから、虚、心配しないで」
これ以上藤堂家に迷惑かけたくないの。
そう言って、満面の笑みを浮かべた。
「そうだ、お父様__つまり虚のお祖父ちゃん__の言った事、覚えてる?」
所詮世の中金なんだよ、希望を持とうが何しようが、只の紙切れで全てが変わり、全てが終わる。それだけは忘れるな。
___でもな、夢を持たなきゃ、お金は手に入らない事ぐらい、解るだろう?
一番だけを追い求めるな、大切なのは自我と感謝を忘れない事。
追い求めるのは、夢だけでいいんだよ。
「皮肉っぽいよね、お父様。虚の前では乱暴に相手してて、自分の事しか考えてないみたいな素振り見せてるくせに、裏では虚のことばっかり心配してて___っ、只の親馬鹿じゃない」
虚がお父様の事大好きなのが、伝わってたのかもしれないわね。
まったく、とんだ幸せ者よ。
絶望と恐怖の淵で何とか自我を保っている二人の姿を、祖父は笑って眺めているのかもしれない。
そして男女四人組も。