BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

第五十二話・・・閑話休題≠緩和及題 ( No.339 )
日時: 2011/11/14 21:00
名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: tQGVa0No)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=RkqRuL-MOEg

正夢をよく見る。

自分が過去に囚われ易い人間である事はよく分かっているが、恐らく正夢というものは盆に起こりやすい故に、一種の霊能現象なのであろう。



それにしても正夢から醒める瞬間と言うのは、どうも電流を流され麻痺したような__もしくは取り憑かれたような不思議な感覚に陥る。



虚実から現実に引き戻されるようなこの感覚。
必死でしがみついていたモノから引き剥がされる様な奇妙な感覚。










そしてようやく完全に『何か』が引き剥がされた其の時___










「おはよう」快い囁き声が虚の耳元を擽る。

開眼と言わんばかりに虚が目を見開くと、
其処は車の中で。
目分量3cm程の距離に、





禅の顔があった。





「……うわああああああっ!!」


脊髄反射的に悲鳴を上げる虚の姿を見て、禅がくすり、と嗤う。


「何だ、もうちょっと遅く目が醒めててくれればキスしてやったのに」

           


             沈黙。        




「意味分かんねぇよ!!____本当に早く目が醒めて良かった」
「しかも舌突っ込んで舐めまわすサービスもつけてやったのに」
「その台詞だけ聞くとただの妖怪みてぇだ……」

         


            以下略。





「それにしても随分と良く寝てたな」優大が口を挟む。
「いや、記憶が無いんだがおっさん、何処に行くつもりなんだ?」
「馬鹿な子だな、どうせ正夢でも見たんだろ?まったく若い頃の私にそっくりだ」
「良く分かったな……ってそんな事はいいから!」
「虚、考えてみれば良く分かるだろ?まあ教えてやるけどさ」



__お前の母さんの墓だよ。



ああそうか。
あれは決して無駄な正夢じゃなかった。
寧ろ運命的な、一種の暗示__



「正夢を本当に見たのなら、お前は霊能者の資格があるんだろうな」

__私はこんなひねくれ者だから、正夢どころか夢すら見ないからな。



そう寂しそうに笑う叔父の姿は、死んだ母に何処と無く似ていた。



「おっさんはいつも8時に寝るからだろ」
「はは、そのせいだったら良いけどな__お、着いたぞ」










一面の墓石の中に紛れる母の墓は、これほど遠くでは到底見えそうも無い。
本当であれば藤堂家の敷地内に埋葬されるはずの母の遺体だが、死因が自殺であったことから『一家の恥さらし』として、外に追放されるようにしてこの共同墓地に埋葬された。
一般人並みと言えば一般人並みなのだが。

暫く歩を進めていくと、ようやく母の素っ気無い墓石が姿を見せた。



「__久しぶりだな、ここに来るのも」虚が感慨深く呟く。



「それにしては随分きれいな墓なんだね」禅がそっと微笑むと、虚も同意したように相槌を打つ。



「おっさんが手入れしてるのか?」
「当たり前だろ、一家から追放されてる女なんざ、私以外の誰がやるんだい?」犀霞がそう言うと、虚はそれもそうだな、と複雑な表情を見せた。



「それより私の虚」
「『私の』は邪魔だが何だよ」
「お前、本当に___」少し言葉を詰まらせるが、犀霞は続ける。
「今日わざわざお前の母さんの墓に連れて来たか、分からないのか?」



「…………分からない筈、無いだろ」



「え、何?俺と沢村副か……じゃなくて禅を紹介する為じゃないの?」優大が天然故の罪作りな台詞を吐く。



「__違ぇよ」虚が流し目気味に優大を見つめながら苦笑を浮かべる。










「その為にわざわざ今日、おっさんの所に来たんだからな」





「いい度胸だ」

そう言って、犀霞は優しく微笑んだ。