BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

第五十四話・・・あい ( No.351 )
日時: 2011/12/22 20:32
名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: F1B4nr3O)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=gypuWo_iQMg&feature=related

黄昏時__言うなれば逢う魔が刻が訪れようとしている閑散とした墓地にて。
小さな、小さな、そして恐ろしくか細い魂が、点滅を繰り返しながら、少しずつ気配を強めていく。

緊張感を孕む殺風景な墓地に純白の袈裟が乱反射し、空虚に溶け込む。



そしてようやく虚が発した言葉は。



素っ気無い般若心経だった。



只一点だけを指差し、見据え。



継承と言う目的以外の、復讐と敬愛と安寧を湛えながら。


般若心経をはじめとする__大まかに言えば『呪文詠唱』に分類される物は、元々の目的は緊張感と雰囲気を与える為のものらしいが。

そんな事も無意味にしてしまうほどの狂気は、徐々に辺り一体を取り巻く。










「虚は……一体何をするつもりなんですか」たまらず優大が問う。
「静かに、もうすぐ分かるから」










余りにも一般的で凡庸な呪文詠唱が終わりを告げた。


刹那、虚が発狂するかのように一言吐き捨てる。





「そこにいるのは分かっているんだ、母さん」




___苦しいのは分かってるから。

「まずは、泣くのをやめろ」

そう言って、母の寂しげな墓石に歩み寄っていった。










見えざる物との哀れな闘いが。
ようやく幕を開けた瞬間だった。










「母さん、聞こえるか」

__聞こえるに決まってるじゃない。





優大たちの耳にも、心なしか虚の母の声がか細く聞こえた。





「今日は、継承式だ」

__そうだね。





あくまでも冷静に、冷静に、と不安定な心情を無理やり抑えているのだろうか、虚の額には早くも汗が流れていた。





「言いたいことは分かるな」

__え……?何が何だかさっぱり__


「黙れ、馬鹿馬鹿しい事言ってないで本当のことを伝えろ」

__すっかりそんな口の悪い子になっちゃって……



「早く言えと言っただろ!」

__分かって……ます





苦しみと零れ落ちそうな涙に喘ぎながら、虚は声を絞り出す。





「今日の目的は、___お前を成仏させる事だ」

そして、俺が毎晩悪夢に魘されている元凶をつぶす事だ、と付け足した。

__ごめんなさい。


「謝る余裕があるのならとっとと質問に答えろ」

__はい。


「成仏する覚悟は出来てるか」

__できて____


「……本当に呆れた奴だ、情けない」

__できてますって……。


「本当だな?後から成仏したくないとか言っても無駄だぞ」

__はい。





愛情を必死に押し殺し、最低の息子を演じる時の表情ほど、辛辣なものはない。





「最後にやりたいことがあれば言え、但しすぐ終わることにしろ」

__虚。


「何だ」

__最後に……私の息子と過ごす時間を下さい。





虚は必死で今にも溢れそうな涙を堪え、再び口を開いた。





「……ったく仕方ねぇな、お前の実体を出すのに時間かかるんだよ」










そう吐き散らしながら、虚はそっと瞳を閉じ、勢いに任せて合掌した。
奇妙なまでの霊圧が墓地全体を包み込む。
暫くおぼろげな光が虚の周りを取り囲んだ後、愛する母を現実世界に呼び覚ましたのであった。










「……虚」

虚の母は、虚の大きな体を貪るように抱きしめた。

「かあ………さ…ん」抑えきれない感情がこみ上げ、地べたに足から崩れ落ちる。
「無理しないでいいから、最期だけでも本当の虚でいて……お願いだから」
「母さん……ごめんな…か…あさ…ん」
「謝らないでいいの、もうこれ以上自分を責めないで」
話すことが見つからない余り、虚の表情に焦りが伺えた。
「俺は……俺は、強く生…きて…いくから、母さんはゆっく…り休めよ」





その時だった。





母の体が徐々に透けていき、陽炎のように揺らめき、ぼやけて見えにくくなっていく。





「もう本当にお別れみたい」
「母さん……!!」
「虚、憎しみに囚われずに、……今まで通り、強く生きなさい」





__ありがとう。





その言葉を放った瞬間、急速に体が透けていき、最早触れ合えるのは声だけになってしまった。





大好きな母に贈る、
最後の一言。
最期の一言。





それは母の放った最後の言葉と激しく共鳴する。










「大好きだよ」










皮肉なことに、
そんな虚の母の名前は『愛』。