BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: _____The wound loses if cured ( No.202 )
日時: 2011/02/16 18:03
名前: 刻鎖 ◆KokuskA/To (ID: 9yCTBNZC)

■小悪魔的な思い





 とある高校の教室で、奇妙なナレーションが流れていた。


「——〝氷雨、聖。年齢、高校3年生の18歳。性別、男子。サディスト〟×〝五十嵐、碧。年齢、高校3年生の17歳。性別、女子。サディスト。〟=〝恐ろしいほどイチャイチャしそうなカップル。〟——である。
 つまりは、必要以上にイチャイチャしてるカップル……バカップルの一種である。
 そして——……「何、このナレーション」」



 すると、美男美女(by.クラスメイト)が現れる。……妙にイチャイチャしながら。

 謎の声の主、クラスメイトの友達の頭を鞄で思いっきり殴る2人。おそらく、この2人がさきほどのナレーションの五十嵐と氷雨なのだろう。
 氷雨が、机に座って本を読み始めようとする五十嵐にダルそうに声をかけた。

「おい、碧。サボるぞ。今日は屋上」
「はぁ? 今日もサボんの、よく赤点とらないね」

 まだ教師が入ってきていない教室は、生徒の楽園。……まだザワめいている教室で、2人は後頭部から出血している謎の声の主を友達に押し付けるといかにも不良、の会話が始まった。
 と、いうか、本当に不良みたいだったりする。
 不良まではいかない。そりゃ2人とも黒髪だし。ただ性格、雰囲気は滅茶苦茶だった。

「教えてやるって、べつのコト」
「はっ、それに関してはわたしの方が上だね」
 ……聞いてるこっちとしては、滅茶苦茶恥ずかしい単語が揃っているのだが、2人は気にせず続ける。

「嘘つけ。前なんてお前、全然知らなかった癖に」
「何、いつの話? 中1くらいかな」
「ばーか、もうちょい前だよ。小6の最後」
「うわっ、キモっ。何でそこまで憶えてんだよ」

 碧は読もうと思い鞄から出した本を、またわざわざ鞄に入れると聖と並んで教室を出た。クラスメイトの視線は、明らかに「うわーお……」というものだった。

 屋上の扉を軽く蹴って開くと、スーっと冷たい風が体にあたった。
 「うおっ?」と小さく呟くと、ぶるっと震える碧。
「聖、上着貸して」
 聖の着ている上着を引っ張り、手を出して上着を要求する碧に、聖はニィっと怪しい笑みを浮かべ、パシッと碧の手を振り払う。
「……着てるじゃん」
 絶対、「何かよからぬことを考えている」と普通の人間なら思うはずである。——だが、サディストはそんなことも気にしない。
 だからァ、と振り払われた自分の手をさきほどと同じ、聖の羽織っている上着に伸ばす。


 だが、甘かった。


 ……聖は、さっきのように振り払うわけでもなく、ただ碧の手を握った。
 普通、こんな美男(by.クラスメイト)に手を握られたら真っ赤になってしまうのだが。美女(by.クラスメイト)で、おまけにサディストにはやはり通用しない。
「これだけで我慢しろと?」
 そう、しかも、もっと上を要求してきた。
「しろよ」
 意地の悪い笑みをみせると、聖は握ったままの碧の手を自分の上着のポケットに入れた。
 ポケットの中にはカイロがあるようで、一瞬で、冷えてしまった情けない指は暖まった。
「……暖けェ……」
 聖と碧は、顔を見合わせてニッと笑うと、そのまま屋上の壁によりかかるように座った。そして、寄り添って瞳を閉じた。
 ——スースーと寝息をたてはじめたのは、それから数秒後のこと。

Re: _____The wound loses if cured ( No.203 )
日時: 2011/01/07 20:45
名前: 刻鎖 ◆KokuskA/To (ID: 9yCTBNZC)
プロフ: 1800文字だったりする

「……あり?」


 すっかり暗くなった帰り道。賑やかな商店街を歩く2人。
 すると、碧がある花屋の前で立ち止まる。つられて聖も立ち止まり、不機嫌そうに碧を見た。

「こんなところに花屋なんてあったっけ?」

 いつも歩いているハズの商店街。碧は「はてな」と首を傾げる。

「あったけど」
 だが、返ってきた言葉は普通なもので。それでもサディストは強い。全く気にする様子がない。
 ふーん、と納得したように呟き、「入ってみない?」と聖の上着の裾を引っ張った。
 聖は「へーい」と答えると、碧に引っ張られた上着の裾を取り返し、その店に入る。

「……あり?」

 先ほどと同じような(というか同じなのだけれど)台詞を呟く碧。
「あのー、店員さん?」
 碧は調度2人の近くにいた店員に声をかけた。

 笑顔で「はい、何でしょう」と答えてくれる店員に、奇妙な名の花を挙げる。
「アルストロメリアって花、ここで扱っていませんか?」

 ——〝アルストロメリア〟。聖は「何だそれ」という風な顔をしていたが、店員は何のことかすぐわかったらしい。……だが、何故か困ったような顔を碧に向けた。

「申し訳ございません、アルストロメリアの季節は3月から7月ですので、当店ではただ今出しておりません」
「——そうですか、残念です。3月になったら買いに来ますね」

 おそらく演技だろうと思われる口調、表情。
 聖にはすぐに演技だとバレていたが、店員には結構効いた……っぽい。
「はっ、はい! 3月には仕入れられるようにしますっ!」
 真っ赤になって言う始末。
 しかも店を出るときなんて「またのご来店、お待ちしています」とかなんとか……。きっと聖はその店員が事実を知ったときのを想像して思わず吹いてしまった。

 ……事実を知らない店員にムッと睨まれ、S心が出てしまったのか、碧の肩を押して早く店を出るよう急かした。




「——つーか」
「?」
 花屋をでてから数秒後。聖は、さきほど訊こうと思って忘れていたある質問を思いだした。

「アルストロメリアって、何?」

 ……そう、あまり有名な花であるわけではないから、分からない人もいるのである。
 碧は「えっへん」とでもいうように歩きながらだが腰に手を当て、変な回答をした。


「わたしの好きな花なの」


 答えになっていない、全く答えになっていない。
 普通の人間ならツッコむはずである。
 だが、サディストの頭の中は理解できない。……何故かそれで納得してしまっている聖。

「俺より好き?」

 ——……あ。

「ん、聖の方が好きだけど」
「本当にー?」
「さ。どうかね」

 ——……まただ。

「愛してるって言ってください」
「愛しています。心から」

 ——……また始まりましたよ、

「よーしよし、よくできました」
「ばーか」

 ——……恥ずかしい会話が。

 しかも、人で賑わう商店街の中を。サディスト、恐るべき……周りの人が滅茶苦茶真っ赤になって2人をみている。
 おまけに、それに見せ付けるかのように手を繋いぐ体勢から、碧が聖の腕に自分の腕を巻きつけるという体勢にいつの間にか変化していた。
 そして、2人を真っ赤になりながらもチラ見している人々。

 ……怖い。



 〝五十嵐〟という表札の家。2階からはSの会話が。
 ——まあ、内容はたいしたことないのだけれど。

「聖も絶対好きになるよー。この花」

 〝植物の図鑑〟と書かれた分厚い本のさくいんを見ながら碧が言う。

「何でだよ」

 碧のものだろうと思われるベットにゴロリと寝そべっている聖。その瞳は碧をぼやーっと眺めている。
 碧はしばらくの間図鑑とにらめっこしていたが、「あった」と呟き、やっと聖のほうを向いた。


「ほら、この花」

 薄い紫色の……桃色みたいな色の花だった。
 こんなサディストとは一生無縁そうなこの花。

 一体この花のどこら辺が好きなのだろう。聖も一旦ベットから体を起こし、面倒くさそうにその花の写真を眺めるが、すぐにまたベットに寝っ転がってしまった。
 碧は、そんな聖の仕草も気にしない。

「アルストロメリアの花言葉は、〝小悪魔的な思い〟なんだってよ」

 ——小悪魔的な思い。
 サディストには調度いいのか、悪いのか。

「ど? 好きになりましたか、聖くん?」
「ん、好きになりましたよ。碧ちゃん」

 ——……2人の好きな花、アルストロメリア。

「もし、大人になって、聖(碧)が死んだら、必ずこれをお供えします。——なんちゃって」

 ……この2人にしかしかできない会話。