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「悲しい？」

　そんなもの、

「わたしにそんな感情ないわ」

　知らないのではなくて、

「——悲しみなんかあったら、毎日泣いて過ごさなければいけないんでしょう？」

　知りたくないのよ。



■悲しみを知らない姫様は




「哀しい子だね」
「！？」

　ある日、わたしの前に綺麗な女の人がやってきた。

「こんな大きな檻の中にずっといたら、そりゃ心もお人形みたいになるよね」

　差し出された細くて白い手を握った——暖かかった。


「姫の名前は？」
「……逢（あい）」
「いい名前。わたしは百（もも）」




　それから5年、わたしたちは旅をした。

　だけど、あるとき百は川に魚を取りに行ったきり、帰ってこなかった。


　警察の人は、熊に襲われた可能性があるといっていた。





　（可哀想な子と言われ続けた哀れな姫様！）





　* *

　さようなら、そしてありがとう。
　悲しいという感情を教えてくれた貴女へ。