BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 紅茶を飲んで迷いなさい ( No.81 )
- 日時: 2010/12/29 23:14
- 名前: 松筆 (ID: Ka5Rg9kR)
オリジナルっぽいです。
3月兎+アリス×帽子屋
あの童話をモチーフにした汚い妄想です。
「また迷子か」
やれやれ、と言いたげな声が森を響かせた。
僕は荒い息を整えるために深く息を吸う。
いわゆる深呼吸を何度か繰り返す内に、なんとか落ち着いてきたようだ。
そして僕は辺りを見渡す。
木、木、木、木。他にあるのは、とても細い獣道。
めんどくさいと思いながら、その獣道に足を踏み入れる。
どうせこの先にいるんでしょ。そう、声を出さずに問いかけた。
抜けた先は、毎度お馴染みの景色。
ぽつんとそこだけ隔離された空間に置かれた小さな白いテーブルにチェア。
いるのは三人の男。
「…………うわあ、何いちゃついてんの」
「ぼうしやー、くっきーたべたい」
「はいはいクッキーな。あとアリス、別にいちゃついてなんかないぞ?」
「すーすー…………ぼくは……いま、ねて、まーす………………」
不思議な寝言をもごもごと口にする、眠りネズミことエリオット。
僕の好きな人である、みどりの黒髪がとっても綺麗な帽子屋さん、キーファ。
そして弟としか見られてないくせにいつもひっついている脳内春兎、ローファス。
この三人はいつもお茶会を開いている。
帽子屋さん曰わく、「終わらないお茶会」だそうだ。
そして僕はよく、強制的に招待される。
帽子屋さんは、その白い指でチョコクッキーを一枚彼の口元へと運ぶ。
いいなあ、いいなあ、いいなあ!
あのお菓子は帽子屋さんの手作りなのだ。それを食べられるなんて。しかも、「あーん」だ。
「帽子屋さん、紅茶がほしい」
一つだけ開いていた、帽子屋さんの向かいの席に腰を落とす。
すると、すぐに薔薇が描かれているカップを突き出された。
彼の翡翠の瞳をただただ覗いていると、「飲まないのか」と不安そうな声。
飲むよ、ありがとう。そう口にして受けとると、彼はにこりと柔らかい微笑みを浮かべた。
ああなんてかっこよくてかわいいんだろう。
僕よりも身長は高いし、体格も細いわけじゃない。なのに、どうしてか愛おしく思える。
「で、アリス。お前はどうやったら迷子が治るんだ?」
「帽子屋さんが…………泣いてくれたら?」
「馬鹿言うんじゃない。真面目に考えろってんだ…………あーはいはい、次はキャロットケーキな」
真面目な答えを流された挙げ句、馬鹿兎への「あーん」。むかつくー。
しかも馬鹿兎は、「ありがと」という一言と共に頬へくちづけたのだ。その金髪と耳ひっこ抜いてやろうか!
僕は湧き上がってくる苛立ちを隠しながら紅茶に口をつける。
今日のは甘く、僕の好みだ。そして同時に、帽子屋さんの苦手な甘味。
「今日の甘いね」
「またどっかの困った迷子が来る気がしてな」
そう言う彼には苦笑。
何だろう、ちょっとどころではなく嬉しい。
カップの中の紅茶が空になった。
ああ、森の中で走り回ってたから喉が渇いてたんだろう。
僕は席を立った。
「…………もう行くのか?」
帽子屋さんが、僕を見上げる。
何だか珍しい光景。というか、彼氏の帰りを引き止める彼女みたいだ。
そんな妄想をしていた自分に50kmほど引いた。最低だ。
「うん。女王様のところに行かなきゃ」
「…………そのエプロンドレス着てか?」
「女王様は僕の女装姿が好きみたい」
どうせなら帽子屋さんに女装させればいいのに。似合わないのが逆にいいのに。
でも女王様と帽子屋さんは、宇宙がやばい程仲が悪いからなあ。
帽子屋さんが小さく、そうかと呟いた。
寂しそうに見えたけど、絶対ここに残ることはしたくない。彼が素直になったら考えないこともないけど。
ねえ帽子屋さん、置き土産。
そっと軽くくちづけて、ぺろりとその唇を舐めた。
やっぱり今日の紅茶、甘いね。そう言ってやる。
帽子屋さんは案の定、僕の右腕を掴んできた。それも凄い力で。
「僕の右腕折れちゃうよーう」
「お前…………っ、もう招待してやんねーからな!」
「帽子屋さん、紅茶飲むと冷静になれるんじゃなかったの?」
一瞬の隙を狙い、逃げ出す。どうせ帽子屋さんは追って来ない。
そして再び獣道を走る。
抜けた先は、さっきとは全然違う場所だった。
あー、帽子屋さんかわいかったなあ。
そろそろ真面目に女王様のところへ向かうとしますか。
一人呟いて足を運ぶ。しかし、すぐに足を止める羽目となった。
「………………女王様の城って、どっちだったっけなあ?」
また、愛しい彼が僕を招く。
僕はただそれに従うだけ。