BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 「もう一度だけ」と貴方は言うけれど【オリジナルBL】 ( No.4 )
- 日時: 2011/01/08 01:04
- 名前: パナジウム(仮)@名前募集中なう ◆gkJKyRKQ9E (ID: 9L4Q1bFg)
闇の中に、浮かぶ、ネオンの、輝き、
掴めそうで、掴めなくて、何度も願った、
叶わない、そう、知ってても、何度も、何度も、
言葉は、虚無へ、消える、
届かない、声を、何度も、何度も。
【叫んだ】
夢を見た。
昔、付き合っていた同時の夢。
優しく頬に触れる大きな手と、耳元の空気を震わす甘い声。
抱きしめられた夢は、とてもリアルで。
そばにあった古い携帯を見つめる。以前まで、彼と僕を繋いでいたもの。
もう壊れて、塗装も禿げて、お世辞でも綺麗とは言えない。
「…悠」
それでも、この世界の中で生きる僕の中では一番“綺麗”なもの。
彼の名を呟き、そっと抱きしめる。
「会いたいよ…、悠……!」
枯れたはずの涙が、
—————————零れた。
「りっくーん、お疲れー!」
「あ、雪ちゃん。お疲れ様ー」
朝、流れた涙を無理矢理止め、大学へ急いだ。
僕の目の前にいる栗色のストレートロングの女の子は、安藤雪ちゃん。
中学時代からの友達で、親友と言っても過言じゃない。
…ってあれ?なんで雪ちゃん僕に話しかけてるの?まだ講義中じゃ…
「りっくん、講義中ずっと上の空だったでしょ?だからさ、どう?近くにできた美味しいケーキ屋にでも!」
“だった”ってことは、講義終わったってこと?え?まじで?僕講義半分もきいてなかったよ?
あー……うん。
「ノート、見せてくれるなら」
「やったぁ!」
尽かさずノートが差し出される。
というか、勘のいい彼女のことだ。僕が上の空だった理由も、分かってくれてるのだろう。
ニュースで何度も流れる無表情なアナウンサーが言う、僕らにとって残酷な言葉。
「…お兄ちゃんと悠君もいれば、もっと楽しかったのにね」
未だざわつく教室の中、そこだけ音がないように感じる。
五年前の今日、どれだけ泣き叫んだか。どれだけ抗ったか。
その苦労をしっている彼女だから、こうして僕の前で言えるのだろう。
彼女が言っているのは、“昔に戻りたい”というのと一緒だ。
「……今更悔やんでも、仕方ないよ。ほら、行くんでしょ?早くしないと混むよ?」
荷物をまとめながら、そう呟くように言う。
頷く雪ちゃんを見ると、バックを肩にかけた。
今から丁度五年前。
漫画内での同性愛や近親相姦を規制が作られる。
それに便乗した国は、“未来を守るため”と称し、法律で同性愛や近親相姦を禁止した。
僕、中原璃玖と雪ちゃんははその被害者の一人。
僕は元々、東雲悠という一個上の中学時代からの先輩と付き合っていた。
雪ちゃんは、自分と血の繋がったお兄さん(ちなみに悠と同じクラスだった)を。
深く愛し合っていた。これはまぎれもない事実。
でも、どんなに深い愛も、法律の前では無力に等しかった。
国の力で僕らや、他の人たちも恋人との仲を引き裂かれた。
悠や雪ちゃんのお兄さんは、外国への“留学”という理由をつけられ、僕らと離れ離れになった。
「美味しーねぇ」
雪ちゃんは笑ってるけど、きっと無理してるんだろう。
苺をちまちまと食べながら、そんなことを思う。嗚呼、クリームが甘い。
ぼーっとしてると、雪ちゃんがこっちを見つめてきた。
「…何?」
問いかけると額に手が伸ばされる。
途端に小さな痛みが額を襲った。いってぇ……。
「そんなしけた顔しないでよ。どんなに悔やんだってさ、時間なんて戻ってこないのよ?バッカみたい!」
…確かにそうだ。
居たたまれなくなって目を逸らしてしまう。
「目、逸らさないで。こっち見て!いい?璃玖がそんなんじゃ、悠君だって戻ってくる気失せるっての!」
雪ちゃんが泣きそうな目で見つめてくる。
なんて僕は残酷なことを言わせているんだろう。また涙が零れそうになる。
「…ごめん」
「ったく、もうそんな顔しないでよ?」
ケーキに添えられていたチョコプレートを口に含みながらそう言われる。
ちょ、女の子なんだから口に物入れたまま喋んないでよ。
思わず笑いが零れる。
「…あれ?携帯、りっくんの鳴ってない?」
雪ちゃんの指摘で、マナーモードでバイブにしていた携帯が震えていることに気づく。
急いで携帯を開く。そして、声をひそめて話す。
「はい…」
『久しぶり。璃玖』
「………っ」
小さな機械の塊から聞こえる、愛おしい声。
雪ちゃんが“誰?”と口パクできいてくる。
「悠……!?悠、なの?」
「っ!?悠君!?」
声が震える。何度も、何度も待ち望んだ声。
規制だらけで止まった恋物語の一つが、ゆっくりと動き始める。
【叫んだ】
(外に飛び出して)
(貴方の名前を)
(叫びたい)
一話終
(/お疲れさまでーすノシ