BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.105 )
日時: 2011/04/27 23:51
名前: 雲雀 (ID: aU3st90g)
プロフ: 「今でもあなたが」より

番外編___ただ静かに想う___

初夏特有の爽やかで涼しい夜風が、頬を掠めていった。
空を見上げれば、漆黒の闇夜の中に、淡い光を放つ月が浮かんでいた。

「彼と最後に別れたのも、こんな夜だったな……」

背景の暗闇に紛れるその黒髪は、月明かりに照らされ、薄く輝いて見える。
愛おしそうに月を見つめるその姿は、『儚い』という言葉そのもののようで____________

【彼】

その言葉を紡ぐ彼女の唇は、酷く切なげで。
彼という存在が、どれほど大切なものだったのかを窺い知れる。

月明かりがその端整な顔に影をつくり、その光景はまるで一枚の絵のように思われた。
その空間だけ、時を止めたように。







この地域には、いくつもの小さな森がある。
昼間は子供達の遊び場に、夜は恋人達の逢瀬に。

森というものに足を踏み入れてみれば、それが「神聖」と言い伝えられる意味が分かるだろう。
木々のざわめきが、子守唄のように幾重にも聴こえる。
そんな中、ふと、瞼を閉じてみる。

そうして真っ先に脳裏に浮かぶのは、あなたの笑顔。
今でも鮮明に覚えている。あなたの声、瞳、ぬくもり、その存在の全てを____________



彼と恋をしていたのは二年前、16歳の時の、たった一年だけだった。
彼の何に惹かれたのかは分からない。それでも大好きだった。
不器用で言葉が少ないながらも、彼からの言葉は、いつでも私の心を満たしてくれた。
ただ傍にいれるだけで幸せだった。そのぬくもりに触れていられるだけで、他には何も必要なかった。

______別に、深い意味があった訳じゃない。
ほんの少しのすれ違いで、私達は別れた。
その日も、今日のような美しい月夜だった。だからだろうか。こんなにも、彼のことを思い出すのは……。

不意に、閉じた瞳から透明な雫が零れ落ちた。
ただ、昔の恋人に思いを馳せただけなのに。
それほど好きだったのか、と、初めて自覚する。

「想い合えていた頃は、あんなに幸せだったのにね……」

縋りつくぬくもりもなく、伸ばした手は、ただ月明かりだけを拒んだ。
指の隙間から漏れる月光は、あなたの瞳の色に似ていて。
余計、あなたに会いたくなった。



きっと、何度生まれ変わっても、あなただけを愛するのだろう。
別れたのに、こんな事を考える自分は愚かなのだろうか。
二度と会えるはずなどないのに。

「____________」

愛しい人を呼ぶ声は誰にも届くことはなく、夜の静寂に溶けた。
もう、何も残らない。

数年前まで恋人だった大切な人。ありがとう、幸せをくれて。
もう「私」として相見えることはないけれど。大好きだよ、これからもずっと。



だから、どうか。
性別なんて関係ない。好きな人を心から愛する彼らの想いが、実りますように____________
星が瞬き始めた空虚な空の下で、密かに、だが切実に、そう願った。