BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.106 )
- 日時: 2011/05/01 12:49
- 名前: 雲雀 (ID: aU3st90g)
番外編___僅かに残るぬくもり___
今日、久しぶりに両親の夢を見た。
姉と私が、まだ幼い頃に亡くなってしまった、両親の夢。
記憶も残らないほど幼かったから、両親の事で覚えている事など何もないはずなのに______
夢の中で触れてくれた優しいぬくもりは、どこか懐かしかった。
◇
「ただいま」「おかえり」
そう言える家庭に憧れていた。
家に帰ると、母が迎えてくれて、姉と私で、「ただいま」と言うと、「おかえり」と言ってくれる。
そして夜になって、父が帰ってきて、父が、「ただいま」と言うと、「おかえり」と私達が返す。
そんな事、と思うかもしれない。
でも、私の生まれた家には、それが無かった。
例えば、私が小学六年生、姉が中学一年生の時。
姉は部活が始まり、私より帰りが遅くなった。
家に帰ると、真っ暗な部屋がそこに在って、「ただいま」と言っても、帰ってくる言葉はなかった。
そんな瞬間が、私には一番辛かった。
姉が帰ってきて、「ただいま」と言ってくれて、「おかえり」と返した時は、とても嬉しかった。
それでも、「おかえり」という言葉は、私の心の中に空洞をつくった。
◇
例えば、小学校での運動会。
クラスメイト全員の親は来ているのに、自分の親の姿は無かった時。
100m走で1位をとっても、誰も褒めてくれなかった。
自分の後ろで、クラスの友人が、母親らしき人に、「すごいね」と褒められながら頭を撫でてもらっている時。
自分が失ってしまったその存在が、ぬくもりが、言葉が、とても羨ましかった。
例えば、自分の家族を紹介するスピーチ。
クラスメイト全員、両親や兄弟の事を書いていた。
でも自分だけは、姉の事しか書けなかった。両親との思い出が無いから。
私は姉が好きだったから、その事は特に気にならなかった。
でも、やはりクラスメイトが両親の事を話している時は、胸が痛かった。
例えば、家庭訪問の時。
私には姉しかいないから、先生は来ない。
高校生や大学生なら、大人と言ってもいいのかも知れない。
でも、小学一年生の妹をもつ、小学二年生の姉に話は聞けないのだろう。
だから、私の家に家庭訪問はない。
他にも色々ある。
例えば家事のこと。普通は母親から教わる事なのかもしれない。
でも私には母親がいなかったから、本を読んで知った。
例えば昔話。クラスの皆は、幼い頃父親や母親に読んでもらったと言っていた。
でも私には、その『読んでくれる存在』がいなかったから、皆からどんな話があるのかを聞き、図書館で探して読んだ。
例えば写真。クラスの皆は両親と写っているものが多かった。
でも私はいつも一人だった。姉が写真を撮っていたからだ。
他の人に撮ってもらえばいいのだが、そうするのも気が引けて、いつも一人。
色々な事が、周りの人よりも欠落していた。
だからいつの間にか、自分の感情を殺していくことが多くなった。
私はいつも友人に、「霧谷さんって、いつもポーカーフェイスだよね。格好良いなぁ」と言われる。
でも私から見れば、色々な表情が出来る、その友人が羨ましかった。
ちゃんと人間の感情をもったその表情が、とても羨ましかった。
◇
両親の夢を見終わった後、私は自分でも分からないうちに泣いていた。
頭を撫でてくれた優しい感触。自分の名前を呼ぶ柔らかな声。
そればかりが、自分の脳裏に深く刻み込まれた。
きっと______と思う。
きっと、両親は自分達を愛してくれていたのだと。
写真も無くて、顔さえ分からない。それでも、大好きだった両親。
17年間、何も望まなくなってしまった心が、満たされた気がした。
お父さん、お母さん、ありがとう。
あなた達の娘に生まれてこれて、本当に良かったと思うよ。
だから、もう心配しないでね。
愛されていたという事実だけで、私は頑張れるから。
過去形になってしまったのは悲しいけれど、それでも頑張るから。
いつまでも、見守っていてね。
大好きな両親へ。
今まで、ありがとうございました。
部屋の窓から見た、朝を待つ夜明けの空の向こうに、大好きな笑顔を見た気がした。
『ありがとう』『大好きだよ』伝えきれない言葉は、朝日の静寂の中に溶けた。