BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.115 )
日時: 2011/05/22 22:57
名前: 雲雀 (ID: aU3st90g)

最終章

______この世には、届かない想いも存在する。そんな事は理解できる。この世に生きる全ての人間の想いが届いたなら、【切ない】なんて言葉は生まれなかっただろう。
それなら、届く想いなのに、胸に秘める想いはどうなのだろう。「遠くから想えるだけでいい」______そうして、相手の幸福だけを望む。
どちらにしても、胸が張り裂けそうなほど辛いのだと思う。
想い人に「好き」と伝えられる人なんて、この世に何人いるのだろう。その人は、とても幸せだと思う。(届く、届かないは無しにして)

……じゃあ、自分はどうだったのだろう。
伝えていれば、この想いは彼に届いたのだろうか。
震える掌で握っている“もの”は、ただ愛しさだけを募らせた。



______季節は梅雨。
中庭に咲く手鞠花は終わりを迎え、紫陽花が雨に打たれ、花びらを静かに彩り始めた。







祐稀の転校が決まったのは数週間前。高校では確かに珍しいが、特には驚かなかった。
祐稀の父親は元から転勤が多く、俺が小学校高学年の時に近所に引っ越してきたからだ。
今回の場合は約6年______かなり長く居た方だろう。ここに来て安定したようだったのだが、結局また引っ越すらしい。

祐稀がこの高校に登校する最後の日、女子の半数以上が嘆き悲しんでいた。(モテていた為だと思われる)
送別会らしきものも行われたが、本人が相変わらずの無表情だった為、喜んでいたのかは不明。



______で、現在は屋上で昼食をとっている。
祐稀の要望もあり、俺と祐稀の二人だけ。(二人共人ごみが苦手なせい)
梅雨という季節には珍しく、あまり空は曇ってはいなかった。

「……良かったのか?」

躊躇いがちに唯がそう聞けば、返ってくるのは柔らかい笑顔。

「ん、最後もお前と二人で昼食をとれて、嬉しい」

そうまで言われると、流石の唯も口籠るしかない。
誤魔化すように、飲んでいたペットボトルで赤い顔を隠した。

______再び繰り返されそうで、もう二度と訪れることのない時間。
この時間が、どんなに幸せだったかを痛感する。
口まで出かけた言葉を飲み込んで、ひたすらに涙をこらえて、祐稀の横顔を見つめ続けた。
抱きしめて欲しいなんて願わない、だからせめて、せめて今この瞬間だけは、誰よりも傍にいて、彼の存在を深く感じていたい。

『好きだよ。誰よりも』

ちゃんと、この想いは隠すから。
だから、どうか、今だけは________________________







祐稀がこの学校を去った翌日______天気は雨。
教室に行くと、まだ人は来ていなかった。
サブバをロッカーにしまい、自分の席で文庫本を開いた。……そこでしおりと一緒に挟まれていたのは、短い手紙。
______息が止まりそうだった。



お前は、笑った顔の方がよく似合う。
素直に笑った時の笑顔が、一番好きだ。だから、もう悲しそうな顔はしないでくれ。
愛してる。
お前が幸せであることを、心から願ってる。   祐稀



ねぇ、どうしてそんなに優しいの?
どうして、こんな言葉を残していくの?
「愛してる」なんて残すなよ。また、好きになるから。

笑ってほしいなら、いくらでも笑うから。
……傍にいてよ。それが、俺の幸せなのに。
まだ、何も伝えられてないのに。
思い出だけが溢れて、涙が止まらなくなる。



「好きだよ……」



ずっとずっと、これだけを伝えたかったのに。

「これじゃ……兄さんの時と一緒じゃないかよ……」

大切な事は、何一つ伝えられないまま。

視界が涙で霞んで、見えなくなっていく。
大好きな笑顔を浮かんで……余計、胸が痛くなる。

叶うなら、これが最初で最後の恋でありますように____________

外では雨が降りしきり、紫陽花はその葉を濡らしていった。
まるで、涙を流すように。葉から、一滴の雫が零れ落ちた。













______大学2年生、季節は初夏。晴天。
本を買いに行くため、苦手である人ごみを歩いた。
少し小走り気味に、人の横を通った瞬間。懐かしくて大好きな、銀色を見た気がした。
ふり返ってみたけど、行き過ぎる人波に、彼の姿はなかった。

「______ありがとう」

一言、そう呟いた。
もしまた巡り逢えるなら、心から「好き」と伝えたい。



ありがとう、大好きだよ。これからもずっと________________________

fin