BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.125 )
日時: 2011/05/31 22:21
名前: 雲雀 (ID: aU3st90g)

番外編___犠牲___

家の周りにいくつも存在する森の中を抜けてゆくと、少し開けた所で、目的の人物を見つけた。
肩まで伸びた黒髪を夜風に揺らし、夜空に浮かぶ、届くはずもない月に手を伸ばして、その人はそこにいた。
それはまるで幻のように儚げで____________目を放したら、夜の闇に消えいくのではないかと錯覚させるほど、美しかった。

「____________伊織姉さん……」

少女の唇が、静かな、抑揚のない声で、その人の名を呼んだ。
その声に気付いたのか、伊織は伸ばした手を下し、ゆっくりと少女の方を振り返る。

「飛鳥……」

飛鳥の顔を、その琥珀色の瞳に映すと、静かに微笑んだ。
対にある紅の瞳は、月光を浴びて、より一層輝いて見える。
頬には、涙の筋があった。
恐らく、泣いていたのだと、飛鳥は悟る。
姉さんが愛した、【彼】のことを想って……____________







姉さんに彼のどこを好きになったのかと聞いても、ちゃんとした答えが返ってくることはなかった。
ただ、彼が彼だから好きなのだと、姉さんはそう言っていた。
恋をしたことなどない自分には、到底理解など出来ない感情だった。
「何故?」という質問は、「恋」という感情の前では、無意味な言葉らしい。
この時私は、「恋は理屈ではなく、その人の想いなのだ」と、何かの本に書かれていたことを思い出した。
では人は、何を「恋」と呼ぶのだろう?
そんな事、心を失くした自分には、分かるはずもなかったのだが。



私は、【彼】と会ったことはない。
ただ遠目から、少しだけ見たことがあるくらいだった。
琥珀色の瞳をもつ、優しげで、綺麗な少年だった。
あの人の隣にいる時の姉さんは、本当に幸せそうに笑っていた。
あの人なら、姉さんをきっと幸せにしてくれると、そう思った。

私は両親の死をきっかけに、自分の感情を殺していくことが多くなった。
それは、姉さんも同じことで……でも姉さんは、私を愛してくれた。
ぎこちない笑顔で、私に微笑みかけてくれた。
姉さんが幸せになれるなら、私はこの命を捧げてもいいと思った。
たとえ姉さんが私の命を奪おうとしても、私は、最期の時まで、姉さんを恨むことはないだろう。

____________あの人の隣で笑う姉さんは、本当に幸せそうだった。
彼なら……きっと姉さんを幸せにしてくれると、そう、信じていたのに……。
そんな幸せが、長く続くことはなかった。
何を聞いても、姉さんはこれで良かったのだと、そうとしか言わない。
こうすることが、お互いの為だったのだと____________

この世に『幸せ』になれる人なんて何人いる?
じゃあその「幸せになれる人」は、いったい誰が選ぶんだ?
____________そんな思考を巡らせては、結局、答えが見つからなかった。