BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.130 )
- 日時: 2011/06/12 13:27
- 名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)
番外編___思い出___
『葵の名前はね、この植物からきているのよ。この植物、とても綺麗な花を咲かせているでしょう?あなたの心が、この花のように美しくありますようにって、お父さんと一緒に考えたの』
いつの日か、母はそんなことを言っていた。
とても嬉しそうに、昔を懐かしむように。
だから自分は、「葵」というこの名前が好きだった。
両親がつけてくれた、大切な名前だと知ったから。
______でも、母を亡くした今。
そう思うことは救いでもあり、苦しみでもあった。
もし両親が自分を「葵」と名付けてくれた日に戻れるのならば、自分はまだ、両親の優しいぬくもりの中にいれたのだと____________
叶わないことだと理解していても、願わずにはいられなかった。
◇
一度だけ、両親と植物園に行ったことがある。
その日はたまたま母さんの体調が良くて、せっかくだから、という理由だった。
「____________ほら、葵の花よ」
母さんはそう言って自分を抱きあげ、ひとつの植物を自分に見せた。
『タチアオイ』____________そう看板に表記された、白くて綺麗な花だった。
「葵の名前はね、この植物からきているのよ」
「この植物から?」
彼女は静かに頷くと、あいた方の片手で、その白い花びらを壊れものに触れるような手つきで撫でる。
「この植物、とても綺麗な花を咲かせているでしょう?あなたの心が、この花のように美しくありますようにって、お父さんと一緒に考えたの」
そう言い終えてから、薄く微笑んだ。
「この花……帰りに買って帰ろうか。ちょっと大きいけど……葵はどこに飾りたい?」
そう問われ、自分はこう即答した。
「母さんの病室!!」
「え……どうして?」
「だってこの花、僕の花なんでしょ?学校があって、毎日は母さんに会いに行けないから、だから花だけでもって思ったの」
そう言って笑えば、母さんはその目に涙を溜める。
「母さん?どうしたの?」
母さんの方に体をよじると、優しく抱きしめてくれた。
「ありがとう……葵……ありがとう……」
幾度となく繰り返される感謝。
この感謝の意味は、この頃の自分にはまだ、分からない。
◇
『タチアオイ』
花言葉は、「大望」「大志」「気高い美」「高貴」。
母さんの病室に飾られていた花は、とても綺麗だった。
でもごめんね、母さん。
俺はあんなに、綺麗な心はもてそうにない。
でも、父さんと母さんがくれたこの名前だけは、大切にするね。
ありがとう。
『葵はこの世でたった一人の私の大切な子供よ。ありがとう、生まれてきてくれて。ありがとう、私の子供として生まれてきてくれて』
母さんの言う「ありがとう」は、いつだって優しくて温かかった。
ありがとう。俺を母さんの子供として生んでくれて____________
「ありがとう」
これからもずっと、あなただけの子供だよ。