BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 初恋は君だった 【BL】 完結 ( No.132 )
- 日時: 2011/06/19 17:57
- 名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)
番外編___花の便り___
『スターチス』
花言葉は、「永遠に変わらない心」「変わらない誓い」。
毎年初夏から梅雨にかけて、家の庭で咲き誇っていた花。
母はこの花が好きだった。
母が亡くなると同時に、花は咲かなくなってしまったけれど____________
優しい母の記憶だけは、柔らかな初夏の陽ざしと共に覚えている。
◇
____________『母親』という存在で覚えていること。
優しい人だったということ。
温かい人だったということ。
花が好きだったということ。
生き物が好きだったということ。
父が大好きだったということ。
____________私達を愛してくれた人だということ。
思い出の一ページに綴られているのは、美しい花畑。
まだ二人が幼かった頃の、数少ない母との思い出。
「____________よし、できた。はい、飛鳥」
伊織はそう言って、飛鳥の頭に、花の冠をのせる。
長い青髪に白い花が映え、一枚の絵のように見える。
「よく似合ってるよ。お姫様みたい」
「お姫様……?」
「うん、お姫様」
二人は微笑み合いながら、内緒話のように、耳元で小声で話していた。
その光景を、少し離れた所から静かに見守っている一人の女性。
傍にいて、温かい言葉をかけてくれる訳ではない。
傍に来て、一緒に何かをしてくれる訳ではない。
ただ微笑みながら、静かに見つめているだけ。
そんな母親が、二人は大好きで____________
「お母さんっ」
そんな二人が、母親は大好きだった。
「どうしたの?」
優しい春の陽ざしのような穏やかな声。
淡く弧を描く、形の整った唇。
「はいっ、お母さんにもあげるっ」
差し出されたのは、綺麗な花冠。
白い小さな花が、丁寧に編み込まれている。
「____________ありがとう。二人は花冠を作るのが上手ね」
母親は花冠を受け取ると、二人の頭を優しく撫でた。
「お母さん……?」
「ありがとう……」
髪ごしに伝わってくる、優しい体温。
それはとても心地よく、同時に、言い表せないほど切ない。
「どうか二人の未来が、幸せでありますように……」
“その未来に、きっと私はいないから”
言外に含ませた意味。
己の死期が近いことを、彼女は知っていたのだろうか。
◇
母親のことは大好きだった。
それでも、まるで思い出を過去に置いてきたとでも言うように、日に日に記憶は薄れていく。
だからなのか、もうほとんど覚えていない。
写真もないから、記憶を取り戻すことさえ出来ない。
でも、不思議だね。
大好きだったという事実だけは、変わらずこの胸の中に在る。
どうかこの想いだけは、永遠に____________
『スターチス』
花言葉は、「永遠に変わらない心」「変わらない誓い」。
母にとっての変わらない心とは、父を愛しているということだったのだろう。
そして同じように、私達のことも愛してくれた。
それはきっと、父も同じことだろう。
花は消えてなくなってしまったけれど、想いだけは、消えることなく。
____________季節は初夏。天気は快晴。
穏やかな陽ざしの元で、花達は咲き誇る。
それはきっと、両親からの、花の便り。
「伊織姉さん」
少女は穏やかに微笑む。
「久々に……あの花畑に行きませんか?」
少女の蒼の瞳を見据えてから、もう一人の少女も淡く笑む。
「そうですね……」
微かに、唇が動く。
「また一緒に……花冠でも作りましょうか」
きっとそこには、共にいることのできなかった両親が、笑顔で待っていてくれるから。
Memories alone do not fade.
(思い出だけは、色褪せずに)