BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: タイトル未定【BL】 ( No.49 )
- 日時: 2011/03/13 12:32
- 名前: 雲雀 (ID: 7CyvmYBv)
第5章
「…………」
「ねぇ唯。沈黙を押しとおされながら睨まれるのって、意外と気分よくないんだけど」
______しかも人の顔を見てため息つくのって、失礼じゃない?
葵が唇を尖らせながら不満げにそう呟く。実際、どこまでが本音なのかは分からないのだが。
現在の状況を要訳すると、帰りの電車内で「唯が自分のことを睨んでいる」と、葵が不満を漏らしたところ。
祐稀は空いていた席に座り熟睡中、修哉は方向が逆なので先程駅のホームで別れた。
今のは恐らく、暇を持て余した葵の気まぐれな行動だろうと、唯は判断した。
「せめて修哉がいれば……」
______葵も退屈しなかっただろうに。と、彼は切実な願いを漏らす。
その言葉を紡ぎ終えた後で、ひとつ重大なことを思い出した。
修哉の趣味=睡眠ということを。
前言撤回、いても意味はなかった。
唯が再びため息をつくと、葵の饒舌さが増す。
「何?ため息ついて幸せでも逃がしてるの?」
おかしそうに、葵が笑った。
他人の為に自分が不幸になっても構わないという善人がいたとして(俺的にはこちらの人間は偽善者にしか見えない)、なんの利益にもならないのにわざわざ幸運を逃がす頭のおかしい人間もいる……とでも言いたいのだろうか、こいつは。
「特に理由はない、気にするな。それより、お前はそろそろ降りるんじゃないのか?」
電車内に響いたアナウンスに耳を貸せば、葵の降りる地区の名を言っていた。
葵は気付かなかったとでも言うように顔に苦笑を浮かべ、「本当だ」とおかしそうにしている。
「……そんなことだと、いずれ乗り過ごすぞ」
唯の冷めた指摘に、祐稀の声が重なる。
「ここどこ……?」
ズシッ
唯が感じたのは、明らかな重み。
首筋に柔らかい感触がある。恐らくは、祐稀が肩に頭でものせていて、髪があたっているんだろう。
実を言うと、結構重い。
「あぁ、祐稀おはよー♪」
葵が嬉しそうに時間違いの挨拶をした。
祐稀はそれを真面目に受け止め、「今は朝だったか?」と躊躇うことなく返している。
傷害罪がなければ、二人共殴り飛ばして電車から降ろしてやりたい。と唯は密かに思った。
そんな中、電車の扉がゆっくりと開かれる。
「じゃあ、また明日ねー。二人共♪」
俺と対話していた時の不機嫌さは何処へ。とでも言いたくなるような爽やかな笑顔を残し、葵は扉から外へと出ていった。
「……祐稀、いい加減お前も起きろ。俺らももうすぐ降りるんだから」
「了解……」
相変わらず肩が重いが、我慢しておこう。
また眠られても困る。
それにしても、よりによってなんで葵や祐稀と帰る方向が同じなんだろう……と、唯は思わずにはいられなかった。
でもそんな生活を嫌とは思わないのだから、意外ともう彼らに毒されているのかも知れないと、少年は自分自身に苦笑を洩らすのだった。