BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: タイトル未定【BL】 ( No.56 )
- 日時: 2011/03/18 20:51
- 名前: 雲雀 (ID: eHYT4YxF)
- プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=Ud5BBkKAsxs
今夜は空が曇っているせいか、周りがほとんど見えない。
駅から続いている遊歩道を、唯と祐稀は並んで歩いていた。
二人の間に会話はなく、ただ夜の静寂だけがその場を支配している。
時折吹いてくる夜風に、心地よさとほんの少しの冷たさを感じながら、唯は息を吐いた。
吐いた息は白く、塗りつぶされたように黒い空へと消えていった。
「______寒いのか?」
不意に、祐稀が言葉を紡いだ。
電車を降りてから、初めての会話だった。
「別に……」
唯が素っ気ない返事を返すと、祐稀は「そうか」と呟いて、再び沈黙が流れた。
二人の歩くペースは同じで、互いの手は触れそうで触れなかった。
二人の位置から10mほど行った所に、点滅を繰り返している街灯があった。
その下には、周囲を淡く照らす自動販売機があった。
月明かりさえ届かない今日のような夜には、自動販売機の明かりさえ、眩しく思えた。
「……飲み物買ってくる」
祐稀が小さく呟き、唯より少し早く歩いて、自動販売機まで辿りつく。
唯はその光景を、眩しそうに目を細めながら見つめていた。
◇
遠くでガコンッという音が響いた。恐らく、自動販売機から缶か何かが出てきた音。
自動販売機の僅かな光を浴びながら、祐稀はココアを飲んでいた。
吐く息はやはり白く、宙を少し漂ってから、漆黒の空へと消えていった。
「……飲む?」
唯の前に、飲みかけの缶が差し出される。
受け取ってから少々飲むことを躊躇ったが、ここで飲まなければ逆に不信がられると思い、缶の飲み口に口を付けた。
ココアは想像以上に甘く、喉を通った後も、口内に甘さを残した。
ホットココアだったためか、体が少し温まった気がする。
少し息をついてから、唯はココアの入った缶を祐稀に返した。
「……間接キスだな……」
「……っ!!//」
唯が躊躇っていた理由を、祐稀は事もなさげにさらりと言いのけた。
天然は強いと、唯は改めて感じた。
「だから……?//」
努めて冷静に聞き返す。
すると向こうは特に動揺した様子もなく、「別に」と唯が先程返した言葉とまったく同じ言葉を彼に返した。
「……帰ろうか」
祐稀の掌が、唯の掌を包んだ。
他の人より幾分か体温の低い祐稀の掌は、缶によっていつもより少しだけ温かくなっていた。
「……なんで、手を繋ぐ必要性がある……」
唯が不服そうに繋がれた手を見つめる。
すると祐稀は少しだけ笑って、
「こっちの方があたたかいだろ?」
と囁くように言った。
人の体温というものは、唯が思っていた以上にあたたかく、そして、いつか失われるのだと思うと、予想以上に切なかった。