BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: タイトル未定【BL】 ( No.60 )
日時: 2011/03/20 22:35
名前: 雲雀 (ID: eHYT4YxF)

第6章

「______はい、修哉。注文通り、苺サンド買ってきたよ」

葵がいつもより幾分か低い声でそう言った。
その声を聞くまで窓の外を見ていた修哉は、葵の方を振り向き、「サンキュ」と言って、少しだけ笑った。
窓の外では、季節外れの雪が降っており、体育などは全て中止になった。
一面銀世界______とまではいかないが、灰色の空から降ってくる粉雪は、どこか儚げで、美しかった。
「神秘的」という言葉が、よく似合うと思う。

葵は苺サンドを修哉に手渡し、そのまま修哉の席の前の席に座った。
どこから取り出したのか、「苺ミルク」と書かれたパックにストローをさし、白い喉を鳴らしながら飲んでいる。

「雪さ……止まないね……」

葵の唇から、言葉が漏れた。
修哉は何か返そうかと思ったが、元々返事は期待していなかったらしく、葵はそのまま独りごとのように続ける。

「体育がなくなったのは……ラッキーだったかな……」

いつものような陽気さはなく、どこか寂しそうに紡がれていくその言葉は、何故か修哉の心に不安を過らせた。
その不安など知るよしもなく、雪は大地に還っていく。
ひとつ、またひとつと。

手持無沙汰だった修哉は、苺サンドを食すことにした。
ビニールの包みを丁寧にはがしていき、中の苺サンドを取り出す。
一口食べたところで、葵が嬉しそうに、

「おいしい?」

と聞いてきた。
口の中のものを急いで飲み込み、問われた人物が「うん」と返すと、葵は「そう、よかった」と言って、少しだけ微笑んだ。
その微笑みが、少しだけ寂しげに見えたのは、目の錯覚だろうか。

「それね、最後のひとつだったんだよ」

葵が口元に笑みを残しながらそう告げると、

「ホント?運良いな、お前」

と、修哉が楽しげに返す。
普段と変わらないいつも通りの会話______なはずなのに。
今日は、何故かとても切ない。
それは、葵の寂しげな態度のせいなのか。
灰色の空から降ってくる、雪のせいなのか。
それは、誰にも分らなかった。