BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.93 )
- 日時: 2011/04/03 18:29
- 名前: 雲雀 (ID: aU3st90g)
「霧谷先輩。これ、委員会の……」
そう言って、唯は目の前にいる黒髪の生徒にホチキスでとめられたプリントを渡した。
相手は少し笑って「ありがとうございます」と、敬語で答えた。
先輩だから敬語はいいと言ったのだが、癖ですから、と、結局なおしてもらえなかった。
______で、現在に至る。
「単行本の貸出24人、文庫本の貸出12人、その他貸出21人……全て返却されていますね。お疲れ様です」
唯の目前にいる、現図書委員会委員長______霧谷伊織が静かに礼をした。
女性とは思えない身長の高さなので、174cmある唯でも、少し威圧されてしまう。
______終業式が終了し、各自教室で通知表を受け取ってから、以前酷い雷雨で中止になった委員会が行われた。
最後の委員会ということで、それなりに忙しかった。
本が全て揃っているかチェックし、返却されていない本はないか確かめ、廊下に貼られていた【桜の季節にお薦めの本】と書かれたポスターをはがしたり______と、色々やった。
最後に、学年の代表が3月中に学年で何人借りたかというプリントを提出すれば、委員会は終了する。
______で、何故か1年の代表は俺だった。
「いえ……仕事ですから」
唯が業務的にそう答えると、伊織は吐息だけで軽く笑い、プリントの束を机の表面でトントンと整えた。
「じゃあ後は僕が先生に提出しておくので……もう帰っていいですよ。1年間お疲れ様でした。霧崎さん」
「お疲れさまでした」
軽く礼をすると、伊織が図書室の戸の方を指して、敬語ながらも、からかうように囁く。
「彼氏が迎えに来てますよ」
彼氏という言葉に疑問を抱いた唯は、戸の方を見て、肩にかけてあったサブバを思わず床に落としそうになる。
「彼氏って……俺男ですけど……。ていうか、祐稀……柊の事、知ってるんですか?」
そう問うと、伊織は小さく頷く。
「2年の女生徒の中では大人気ですよ、柊祐稀さん。盗られないように気を付けてくださいね」
「は……っ?」
______盗られないように……?
伊織のその一言で、唯の脳がショートしかける。
目の前にいる黒髪の美少女は、含みのある笑顔を向けるのみ。
「姉さん」
不意に、伊織の横に長い青髪の少女が現れる。
「飛鳥……?保健委員会はもう終わったんですか?」
伊織は軽く目を見開く。
「早すぎる」と言外に含ませて。
「はい。5分ほど前に」
飛鳥と呼ばれた少女は唯に軽く会釈をしてから、伊織に向き直る。
「健全な男子生徒に何やってるんですか?からかうのも大概にしてください」
飛鳥はため息を尽きながら、自分の姉である伊織を見つめる。
伊織も飛鳥の瞳を見据えてから、ゆっくりと視線を唯に戻す。
「そうですね……すみません、霧崎さん。少しからかってみたくなったんです」
伊織がペコリと頭を下げる。
顔を上げた時、前髪の隙間から綺麗な紅い瞳が覗いた。
「姉が申し訳ありません。どうか、ご容赦くださいね」
姉同様、飛鳥も静かに頭を下げる。
二人の行動は、まるで主人に頭(こうべ)を垂れる従者のように慎ましやかだった。
その行為に、流石の唯も苦笑せざるを得ない。
「いや……じゃあこれで……お疲れさまでした」
そう言って、図書室の戸へ足を向かわせる。
自分を迎えてくれるであろう、柔らかな笑顔を見るために。