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episode８９














「才能なんて、」と呟きかけて言葉を飲み込んだ午前三時。
目が覚めて一番に飛び込んだのは赤と黒の髪の毛。
撫でてみるとそれは硬質で、ちくちくと指先が痛んだ。

「お前も、そうだろ？」
眼前のそいつに、そいつに向かって言葉を落とした。
首筋にある赤い痕をなぞりながら、ひっそり、低い声で。
同意を求めるかのような自分の言葉に自分自身が一番驚いた。俺ってそんな弱気だったけか？

才能だの、すごいだの、もてはやされてもなんも面白くねえ。
じゃあ今までした努力は何だったんだよ、バカみてぇじゃねえか。
そんな思いを、こいつも抱いているんじゃないかと問いかけてみたが、もちろん熟睡している火神からの返答はない。
だがきっと火神の場合は抱いて「いた」になるだろう。過去形だ。
だってこいつにはもう、ちゃんと信頼し合えるチームがあるのだから。




○錯覚

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿似てるようで似つかない

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿でも似てるように見えるんだろう








火神の額にキスを落として、俺はもう一度瞼を閉じた。