BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【二次創作】熱帯魚の憂鬱【BL、GL、NL】 ( No.368 )
- 日時: 2014/11/22 13:20
- 名前: 夜藍 (ID: xrRohsX3)
- プロフ: ひとりぼっちは寂しい話 銀桂 本誌ネタバレ注意
episode110
「銀時」
そう呼ぶ声は昔より幾分か低くなったとは思うが、あの時と同じように凛としていて真っ直ぐなことに変わりはない。
そういえばいつからこいつは俺の事を名前で呼ぶようになったのだろうか。
「なんだヅラか」
振り返り言うとヅラは少しむっとした様子でいつものように「ヅラじゃない、桂だ 」 と返してきた。
そういえばいつから俺はこいつの事をあだ名で呼ぶようになったのだろうか。
どちらも解らない辺り、きっとずっと昔なのだろう。とんだ腐れ縁だ、と笑みをこぼした。
攘夷活動と真選組から逃れるため、ヅラは住居が定まっておらず各地を転々としている。
なのでいつもこのかぶき町に留まっているわけではなくここから遥かに遠い場所に潜伏する場合もある。
今回はそのケースだったようで長らくこの顔を見ていなかった。今日で丁度ひと月程になるのではないだろうか。
だが「久しぶりだな」と言う台詞よりあいつが先に出したのは「会いたかったか?」という若干挑発気味の台詞だった。
ニマニマと腹の立つ表情で紡がれた言葉を「別に?」と俺は一蹴する。
と、ここまではいつも通りの会話だった。
いつもならここでヅラは拗ねるなり俺を殴るなり挑発し続けるなりするだろう。だが、今日のこいつは少し様子が可笑しい。
何故なら、「俺は会いたかった」などと言って俺の背に腕を回してきたからである。
幸いなのか人通りが少ない道でこの光景を凝視している者はいないのだが、いつものヅラならこんな道の真ん中で抱きついてきたりなどしない。いや、そもそもこうやってあからさまに甘えてくること自体がおかしなことなのだ。
そこで俺は察して自分の体からヅラを引き剥がし、肩に手を置いて覗き込みながら言った。
「…何かあったのか?」
微妙な間の後、ヅラは困ったような薄い笑いをこちらに向けてきた。
「昔のことを思い出していたんだ。」
場所を移動し、俺の住居である万事屋の一室のソファーに腰掛けたヅラは静かな口調で言う。
「お前と、高杉と、先生と、過ごしていたあの日のことを思い出して」
目を伏せ、幸せそうな表情を浮かべる。
「弱くなったものだな俺も…情けない。」
幸せそうな笑顔は自嘲気味の笑みにすり替わった。
そんなことを思ってもどんなに願っても先生は帰ってこない、そしてあの日々に戻ることなどできない。こいつも俺も理解していることだ。理解した上で俺達は俺達の道を進み、生きている。
それにこいつはいつも自分の信じる道を真っすぐに歩いている。自分がする努力は当たり前だと、立派な武士になるのだと、そうしてきた努力で昔は神童だと言われていたという話をどこかで小耳に挟んだことがある。
そんなヅラが今、目の前でこんな顔をして弱っているのだ。
何だかわからないが心の奥底に危機のようなものを感じた。
ヅラの零した言葉には応えずに俺は無言のまま立ち上がり、ヅラの隣に腰掛けた。
「おめーは無茶しすぎだ、努力だのなんだのに縛られてるようにしか俺には見えねぇ。」
少ししてから出した声は乾いていてカラカラとしていた。咳払いを一つしてから、「昔からずっと休むこともしなかった心にガタがきたんじゃねえのか、」と続ける。
俺は親という存在を知らないが、ヅラも小さい頃に既に両親が亡くなり天涯孤独の身だった。
俺は先生に拾われ、そこで暮らしていたからさほど寂しさというものを感じたことはない。
だがヅラは寺子屋にいる時以外ほとんど一人で生活していたらしい。だからだろうか、家族の温かさというものをどこかで求めているような気がしてならなかった。
そしてその温もりがなければこのままこいつは壊れてしまうのではないのだろうかという恐怖があった。
「だからちゃんと休め、たまには立ち止まれ、そんで……甘えてもいい。」
俺の言葉にヅラは目を見開く。が、すぐにその目を伏せた。
「……それは怠惰だ。」
「ちげーよ、休息だ。無茶しすぎて壊れるよりずっとマシなことだと思うぜ?」
ず、と顔を近づけ詰め寄り強く言う。だが目を逸らして「でも、」と頑なに俺の主張を認めようとしない眼前の相手にとうとう俺の中の何かが切れ、気づけば相手を抱き寄せていた。
「ぎ…ん…」
「お前は!!!小難しいことばっか考え過ぎなんだよ!!!」
自分でもこの行為の意味はわからない。が、ヅラを抱き寄せてから羞恥のようなものが込み上げてきてつい大声を出して誤魔化してしまう。
「だからその、黙って甘えさせられてろ!」
若干自分でも何を言っているのか良くわからないのだが、そして最高に恥ずかしいのだが伝わったのだろうか、横でクスクスと笑うヅラの声がした。
「じゃあこのまま抱かれていようか。」
静かな声で言うとヅラは先程のように俺の背に腕を回した。
○昔話と気休め
__________少しの間でいいから
__________落ち着けるだけの温もりを
「それにしても銀時は素直じゃないな!ハッハッハ!!」
「うるせえ、笑ってんじゃねえよアホヅラ!!」