BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【リク受付中】さあ廻れ、アルカロイド【BL、NL、GL】 ( No.378 )
- 日時: 2015/01/05 21:41
- 名前: 夜藍 (ID: YxUxicMi)
- プロフ: 生温い話 宮高
episode113
なんて生温い、生温いのだろうか。
寒波からは開放された列島だが若干寒さの残る二月下旬。
突然の風にさらわれて隣にいる高尾がひとつくしゃみをした。
その仕草に指先がひんやりとしてきて俺も思わずくしゃみをする。
「あ、宮地さんにくしゃみうつった。」
鼻を啜る俺に高尾がにっ、と笑いかけてくる。
そんなもんうつすんじゃねえよ、と小突いた高尾の鼻は赤く、俺も同じようになっているのかとぼんやり頭の隅で考えた。
俺と高尾は付き合っている。
最初は高尾が俺に擦り寄り、猛アタックしてきたのだったが大抵の場合適当にあしらい、その場をやり過ごしてきた。
だがあしらいも段々と効かなくなり(というか俺があいつに惚れてしまったので)流されてあれやあれやと言う間に今に至る。
チームメイトとして、先輩後輩として、今まで色んなことがあった。高校最後の一年間、その一年だけではあったがとても密度の濃い時間を過ごしてきた。
恋人として、となると部活のことで精一杯であり、部活にはそういう私情は持ち込むものではないとお互い認識していたのであまり恋人らしいことは出来ていない。帰り際、たまに他の奴らの目を盗んでキスをしたことが一、二回あるくらいだ。
好きだとか、愛しているとか、そういう会話も本当にしたことがなかった。
だが、俺が部活を引退して冬休みに入ると高尾は頻繁に俺のところに遊びに来るようになった。
俺だって入試が迫っているから毎回構っていられる訳ではない。だが、構おうが構わないが高尾はいつも俺の部屋で猫みたいに自由にしていた。
まああまり放っておくのも気が悪いので今日は鍋を一緒にしようということで材料の買い出しに来ている。
「あと何買ってない?」
「えーと、春菊と豆腐と…」
高尾が手に持っているメモを見て買っていないものを読み上げていく。あと買っていない材料は三つ程でそう時間はかからずに買い足すことができそうだ。
「この先にスーパーありますよね?そこで買えるかな〜」
「それくらいなら買えるだろ、小さいとこだけど。」
後ろを歩く高尾の問いに返事をすると左手に何か暖かなものが触れた。
それは高尾の右手だった。ぎゅ、と俺の左手を握るその右手を横目に俺は口を開く。
「寂しがりか」
「そうだったら、どうしますか?」
高尾は悪戯っぽく笑ってみせる。頑なに右手は繋いだままだ。
「宮地さんの、背中ばっかり見てるのが嫌で。」
目を伏せながら俺の手を更に力強く握るものだから、眉根を寄せた不機嫌な顔のままこちらを向いた高尾の双眼を見つめることになってしまった。
だが俺が痛がっていることなどお構いなしな様子で高尾は話を続ける。
「俺は宮地さんの隣を歩きたいのにって、ずっとずっと思ってて。」
俺を見つめる双眼は真っ直ぐだ。怖い程に真っ直ぐで、俺はその視線が別の方向に向いてくれないかとずっと考えていた。
そんな考えがよぎる時点で、その右手を握り返さない時点で、答えはとっくに出ているというのに。
「…俺は隣を歩く資格ないっすか?」
「資格がないとか、そういうんじゃねぇよ。」
別の方向に向いてくれないかと願う視線は俺を捉えたまま離さない、だから。
俺が先に高尾から目を逸らして笑う。
「お前を受け止める覚悟が、技量が、俺に無かっただけの話だ。」
その手を離すには、十分な理由だった。
○温水プール
_________生暖かい水の中で
_________きっと勘違いをしていた
「鍋は食べましょうね」
解けた手、背に聞こえる声、微笑む夕方。