BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【リク受付中】さあ廻れ、アルカロイド【BL、NL、GL】 ( No.382 )
- 日時: 2015/02/08 17:16
- 名前: 夜藍 (ID: gI7kIfkJ)
- プロフ: コパス 東(←)雛 お薬の話 鬱暗い
episode114
ピンクもオレンジも水色も口に入れてしまえば同じだ。喉を嚥下し、胃に落ちてしまえば全部同じ。
問題といえば次の日がまた来るのか、朝に目を開くことができるかどうかであった。
(あと、一錠)
目の前に沢山の小瓶が並ぶ中、蛍光ピンクと白のカプセル錠剤の入っている小瓶へ手を伸ばす。これでこの薬は何錠目だろうか。蓋に赤く強調されて書かれている『一日三錠まで』という文字を一瞥する。少なくともこの警告文より多く飲んでしまっているのは確かだ。
その横の薬も、そのまた横の薬も、警告文を書いてはいるものの全てそれ以上の量を既に服用している。
水の注がれたコップを片手にカプセル錠剤を口に入れた。
冷たい水がカプセル錠剤と一緒に口に注がれ、喉を嚥下する。薬と水が胃に落ちていくのをなんとなくだが感じた。
腰掛けていたソファーに寝転がって目を閉じるとふわふわとした感覚が自分を支配していくのが解った。何度経験してもこの感覚は慣れない。まるで乗り物酔いに遭っているかのようだ。
だがこれはやっと薬が効き始めた証拠であり、眠りに誘われている証拠でもあった。
ふわ、と自分が浮かんでいるような錯覚を覚えながら夢と現実の狭間で思いを巡らせる。
そういえば蓋に書かれたあの文字は自分のものではない。もっと他の誰かが書いた警告文だ。これを書いたのは誰であっただろうかと深い考えにつく前に答えは出た。
(東金執行官…)
そうだ、あの人だ。昔カウンセラーをしていたと言うものだから色々と相談に乗ってもらったのを同時に思い出す。その相談に乗ってもらったときに自分の服用する薬の量を見て彼はこの警告文を書き込んだのだ。だが叱るそれではなくどこか暖かさと優しさを孕んだような文字だ。
『貴方は薬の量が多すぎますね、本当はこんな量飲まなくても生きていけるのでは?』
『飲むなとは言いませんから私と一緒に少しずつ減らしていきましょう』
耳の奥で彼の声が反芻する。こんな量飲まずに生きていける、というのは図星だった。自分に効く薬は一通り解っていたしどれをどれだけ飲めば精神が安定するのか、眠ることができるのか、全て解っていた。
それでもそれ以上の量を服用していたのは眠れないことだけではなく生きていること全てに不安を持っていたからだった。
だがこのまま薬の量が増えていけば自分は二度と目覚めることのなく深い深い眠りについてしまうのも事実であって。だからこそ東金は薬を減らす提案をしてきたのであろう。自分もその提案に頷いた。
それから彼と少しずつではあるが薬の量を減らしていく努力をした。それと同時にカウンセリングも受けていたので精神状態も安定しつつ、順調に服用する薬の量は減っていき、最終的には全ての薬を規定量まで減らすことができた。
カウンセリングの中でいつの時だか心の不安定な日に頭を撫でながら抱きしめられたことがある。
きっと錯乱か何かしていたのだろうか、そこに至るまでの経緯は覚えていない。だがあの両腕に抱きとめられた後無骨な手が自分の癖っ毛を掠めたのははっきりと記憶していた。
その時に心の奥底に広がった暖かな何かは未だわからずで、その答えを教えてくれたであろう本人ももういない。
彼の訃報を聞いた時、何時かそんなことになるような気はしていた。執行官というのはいつ死んでもおかしくない仕事であって、誰かが死ねばまた他の誰かが執行官として入ってくる。消耗品のようなものだと何時も頭の片隅で思っている。
だが東金の場合は執行官云々の事情ではなく彼個人の、彼の事情がそういう予感を示していた。
自分も馬鹿ではない。ずっとカウンセリングと仕事の中で彼と接していくうちに彼の心の奥底の黒い靄のような部分が見え隠れしているのを察した。
執行官である以上決して善人ではないというのは明らかなのだが彼にはそれ以上のものを感じた。
だから彼が死んだところでそれはきっと彼の自業自得であり自分は何も思わないのだと思っていた。
だが彼が居なくなってからそれからの期間と比例するようにまた少しずつ服用する薬の量は増えていった。
また生きるか死ぬかのギリギリの量を服用している今このまま意識を手放せばもしかしたら自分はもう目覚めないかもしれない。
(それでもいいかもしれない)
彼に会いたい、もう一度抱きしめて欲しい。この気持ちがどういうものなのか、同僚に対するそれなのか、家族に対するそれなのか、それ以上の何かなのかそれは図りかねるが。
早く一日が終わってしまえばいい、朝が来て目覚めるのだとしても、早く夜が来て、また朝が来て。
それの繰り返しが早く終わってしまえばいい。早く寝よう、早く寝て、寝て。
○宙に浮かぶ
__________ふわふわ浮いて浮かんで回って
__________早く貴方の元へ
回転する周期を数えながら瞳を閉じる。