BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【リク受付中】さあ廻れ、アルカロイド【BL、NL、GL】 ( No.389 )
- 日時: 2016/01/02 11:10
- 名前: 夜藍 (ID: CxgKVnkv)
- プロフ: 残るものの話 ジェスネ
episode117
欲しいものは全て掌を滑り、指をすり抜け、自分より遥か遠く届かないところまで落ちていく。それはまるですくい上げた水がみるみるうちに減っていくそれと似ていた。
だから僕はほんの少し手のひらに残った、飲み干してしまっても喉の潤いになるかならないかのそのひとつの雫をいつでも愛おしく感じていたのだ。
夜風が髪をさらっていく。頬に吹き抜けた冷たい風に思わず目を瞑った。
新月の今日は月の影だけが色濃く空に浮かぶ柔らかな光はどこにもない。あるとすればポツポツと点在する足元を照らすにも満たない星の光である。
そんな夜に密かに学校を抜け出しこの湖に来たのは魔術に使う薬草を採りにきたためである。
その薬草は水辺に生え、新月にしか花を咲かせないことで知られる。今日はその花を採取しに来たのだ。先程採取は終わり手元の麻袋にその花が入っている。
さあ気づかれる前に寮に戻ろうと踵を返して歩きだそうとしたところ。その瞬間であった。
「スニベリーちゃん、」と皮肉めいた声が耳元に届く。
運ばれてきたその声の主を僕はよく知っていたし知っていたうえで無視をした。
「あれ?君には人の声を聞く機能すらついていないのかい?」
憎まれ口をたたくそいつ_______ジェイムズポッターの横を尚も無視を決めながらずんずんと進んでいく。
「こんな所で一体何をしてたわけ?」
僕が無視を一貫するのと同じようにそいつは横に並んで一貫して話しかけてくる。とうとう無視も面倒くさくなって僕は口を開いた。
「貴様こそ、こんな所で何をしているのだ」
「質問に質問で返すのは良くないなあ、その足りない頭ではそうとしか返せなかったのかもしれないけど」
わざとらしく肩を竦めるところがまた腹立たしい。
等のポッターは僕が怒りに顔を歪めているのにもお構いなしで話し始めた。
「いやまあ、少し夜風に当たりたいな〜と外に出てみたら君が学校を出ていくのを見てね!面白そうだな〜と思って着いてきちゃったってわけ」
「……気持ち悪い」
「わ〜素っ気ない!それでいてグサッと来ちゃう!」
「来ていないだろう」
「バレた?」
いつもの嫌味の応酬、とはまた違う会話であったがこの状況下ですら飄々とした態度を、そして僕に構ってくるポッターが嫌いで仕方なかった。嫌いな奴と顔を合わせたならば無視をしてくればいいものを。
「最近いつも一人じゃないか、今日だって…寂しくないの?」
微笑みながらこういうことを聞いてくるところも大嫌いだった。眼前まで近づいてきたポッターを睨めつけて僕は言葉を返す。
「誰のせいだと…」
「最終的には君が招いた結果だろう?黒い魔術に傾倒していった君の、さ」
「うるさ…い…」
「あんまり黒く染まるものだからリリーにも相手にされなくなっちゃってさあ」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
心の中で息を潜めていた怒りが口から外に出るのにそう時間はかからなかった。その言葉が決定打だった、限界だった。
「僕は多くを望むことはなかった!ほんの少しでよかったのに!この手に残るものなんてほんの少ししかないと解っていたから!」
「そうだね」
「なのに何故貴様はそれを奪う!たった一つだった…なのに!そして何故貴様は僕に構う!僕を嫌悪しているのだろう?僕だって貴様が嫌いだ、それならば何故いないものとして扱ってくれない!何故!」
口先は熱くなりながら頭だけは酷く冷静で、吐露されていく言葉を空虚だと思った。こんな言葉、誰に届くというのだ。もう僕の手には何も残っていないのに。最愛と幸福の隣に立つことは叶わないのに。
息を切らせながら全てを吐き出した僕の目の前でポッターは悲しげな笑みを浮かべていた。
哀れみ、だろうか。もっと笑い飛ばされると思っていた。けれどその方がずっと幸せだったかもしれない。何故そんな顔をするのか。それは彼が全てを持っている生物だったから。冷静な頭はすぐその答えに辿り着くことができてそれが余計に僕を苦しめた。
ずっと黙り込んでいたポッターがゆっくりと口を開く。
「なんで君に構うかってそれは、君のそのたった一つになりたいからだよ」
「は…?」
予想していたのと違う言葉が彼の口から溢れ出たことで僕はついぽかんとして相手を見やる。
けれどポッターは何を言い違えたという様子もなく言葉を続けた。
「友愛でもない恋愛でもない好意でもない、"最高の嫌悪の対象"として君のその手に僕は残り続けるよ」
怒りで握り締めた手を指さして彼は笑う。
「どんな形であれ君には残るものがあるんだ、それが君が望まないものだとしても、君がその憤怒を振りかざしてそれに襲いかかろうとしたとしてもずっと」
「………何を勝手な」
月の光のない暗闇の空の下でも彼が笑い続けているのはわかる。
寧ろ今の自分にはその笑顔が頼りだった。その笑顔に嫌悪しか覚えない自分にとっては。
なんて哀しい事だろう、憎み妬み嫌う事を必要としているなんて。そしてそうされることを望んでいる者が目の前にいるなんて。
けれど他人に哀れまれてもいい、疎んじまれてもいい、この関係は他の誰にも解ることはない、解る事は出来ない。自分と彼にしか、掌に残ったただ一つの雫にしか知れることはないのだ。
○水葬
(息を潜めて死んでいくこの関係は深海に沈み誰にも看取られる事無く死んでいくのだろうなんて可哀想なことだ、けれどそれで救われたのはきっと貴様と僕だ)