BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ささめさまから頂きました! さめちゃんだいすきありがとう、 ( No.11 )
日時: 2012/08/10 09:48
名前: ゆいむ ◆xFvCQGVyfI (ID: 3i70snR8)

「も——おりぃ——!」
「おい、ひっつくな。暑苦しいぞ貴様」

 いつものように日輪を拝もうと縁側へ這い出てみれば、すぐに体ごと押し倒され、拝むどころではなくなった。
 わふわふとまるで犬のように盛っている(本人は抱きつこうとしているだけなのかもしれないが押し倒されているこの状態では盛っているとしか思えない、)慶次を見て、溜め息をつく。季節は冬だが、太陽がさんさんと照っている時に大の男に抱きつかれては、暑いに決まっている。

「……えぇい、鬱陶しい、離れろ」
「えー」
「えー、ではない。良いから早く退け!」

 しぶしぶと慶次が毛利の上から退く。退いた瞬時、毛利は部屋の隅に立てかけておいた輪刀を手にし、急いで自分と正面にいる男との距離をとる。俊敏なその動きに、慶次は「おぉ」と感嘆し、驚いた様子で口を開いた。

「すごいねぇ、そんなに素早く刀を構えられるなんて。毛利はすばしっこいな!」
「……それは言外に、我の背丈が他の駒共より些か小柄であると言いたいのか?」
「女の子みたいで綺麗って言いたいんだけど?」
「斬るぞ貴様」

 毛利としては本気で言ったつもりだったのだが、慶次には効かなかったらしい。楽しげな笑みを浮かべて、また「毛利ー」と繰り返し始めた。その光景に、頭痛がする。毛利は本日何度目かになる溜め息を一層深くついた。


 前田慶次が毛利の屋敷をうろつき始めて、もう一週間になろうとしていた。
 初めの内は毛利の方が敵襲かと思い、城の前にいた慶次をひっ捕らえた。調べてみると、慶次は武器の一つも持っていなかった。なので、首を斬るのも面倒だったので周辺に逃がしたのであった。
 次の日。慶次は城の前で捕まえられていたことを覚えていたので、今度はこっそりと毛利の部屋の前の廊下に忍び込んだ。案の定、殺意を漲らせた毛利に捕まり、またもや城外へと投げ出される結果となったのだが。
 そんなこんなで————毛利のところへ慶次が会いに来るという構図が出来上がって、一週間。毛利は、毎回手段を変えて自分のところに会いに来る慶次の意図がつかめず、疲れ果てていた。

「はぁ……なぜ貴様は毎回、我のところにやって来るのだ。貴様のような捨て駒が我の手を煩わせて良いなんて思っておるのか、下衆め」
「ははは! またきっついこと言うねぇ毛利は。そんなこと言ってたら、素敵な恋が遠のいていくよ?」
「うるさい、黙れ」
「あぁ、ところで俺が何でここに来てるのかっていう話だったっけー」

 ——最近、眉間の皺が増えたのは絶対こいつのせいだ……!
 良いように向こうのテンポに巻き込まれながら、毛利は手にした輪刀をぎゅっと握り締める。このまま首をはねて、城壁にでも飾っておこうか。あぁ、でも血の処理が面倒だ——ぼんやりと考えている間に、慶次はにかっと快活に笑って、理由を述べた。

「毛利の笑ってる顔、見たいなーって思ってさ!」
「……………………」

 きらり、と歯をきらめかせて放たれた言葉は、毛利の怒りを誘うには十分過ぎた。

「さっさと我に背を向けろ。首の上の理解不能な脳髄を切り刻んでやるわ」
「そこで本気で輪刀構えるのがすごいよなぁ。…………まぁ良いや、んじゃ後ろ向いてみよーっと」
「は?」

 毛利が呆けた声を出すと同時に、慶次はさっさとこちらへと背を向けてしまう。潔い行動に、言いだしっぺであるはずの毛利は放心する。だがそれは一瞬で、すぐに普段の厳しい顔つきに戻る。内心、焦っているのを慶次に悟られないように。

「……ふん」

 唇を尖らせて、背を向けている慶次の首元に指先を伸ばす。慶次は長く多い髪の毛を一つにまとめ上げているので、当然のように首を触る前に髪の毛に触れることとなった。
 もふっ、という音が似合うほどに柔らかい髪の毛。毛の一本一本が細いのか、指に絡めてもそのふわふわ感は変わらない。初めて味わうその感覚に、毛利は長い袖から手を出し、慶次の髪の毛を両手で包み込んだ。

「あれ、どしたの? 首斬るんじゃないの?」
「なぜ貴様如きの血で我の屋敷が汚されなければならぬのだ、阿呆が。良いからそのくだらぬことしか言えぬ口を閉じていろ」

 慶次のことを鼻で笑いながらも、毛利は慶次のものであるポニーテールを両手で抱えて離さない。傍からみれば、毛利が慶次の頭を抱きしめているようにも見えるのだが——知ってか知らずか、一心不乱に柔らかなそれを堪能しているようだ。

(…………やはり、犬だ)

 さっき飛び掛ってきたことといい、この髪の毛の質感といい。全くこの男は。
 毛利の脳裏に、大型犬の姿が浮かぶ。そして、犬と似ている慶次の姿がやがて重なっていき————毛利は柄にもなく、吹き出してしまった。吹き出すといっても、声も出さなかったので、きっと慶次には聞こえてないだろう。
 そんなことを、考えていたのだが。

「あ、毛利が笑った」
「っぐ!?」

 ふと我に返ると慶次が首だけを動かして、毛利を見上げていた。
 自分の笑顔(笑顔だったどうかはわからないが)を見られた毛利は羞恥心のあまり、真っ赤な顔になる。だが慶次を責めるような言葉も突然なので見つからず、顔を無理矢理逸らした。屈辱だ——声もなく、唇がその言葉をなぞる。
 つかの間、毛利が無言になったことにより二人の間に珍しく沈黙が下りる。
 しかし、やがて慶次の方が沈黙に耐え切れなくなったようだ。いつものような大きなはっきりした声とは違い、ぽつりと言葉を洩らす。

「なぁ、毛利」
「…………何だ」

 つんとそっぽを向いて、毛利はふてぶてしく聞き返した。その頬から朱は消えているが、まだ耳が赤いということに本人は気付いているのだろうか。
 まぁ、そんなところも可愛いんだけどな、と言いたいのをこらえて、慶次は苦笑いを浮かべた。普段、天真爛漫な彼らしくない、苦笑いを。

「不意打ちって、卑怯だと思う」
「…………ふ、不意打ち? 何のことだ?」

 釈然としない様子の毛利を抱きしめてやろうと、慶次は両手を伸ばした。



■きっと、反則。




「あー、可愛い」
「寄るな犬!」