BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: マリオネットに恋をした、 【よろず短編集】 ( No.9 )
- 日時: 2012/03/14 14:38
- 名前: ゆいむ ◆xFvCQGVyfI (ID: wIAOO7NO)
「な、んで、……なんで? なんでや?」
ひくっ、と喉が鳴った。涙がぼろぼろ流れて、ぴちゃぴちゃと部室の床に水たまりを作る。ぎゅっと手に力を込めたら、床に横たわっている——正確には俺に跨がられて押し倒されている——千歳が、くすぐったそうに身をよじった。なんで、なんで。
伸ばされた手が、ゆっくりと俺の頬を撫でる。ごつごつした手。ぼやぼやと曇った視界で顔の方を見ると、よく見えないけれどその口元は弧を描いている気がした。
「金ちゃんは、泣虫、たいね」
かすれた声で、愛しそうに千歳が囁く。なんでや、なんでそんな声で話すん。手がまたゆっくりと動いて頬を離れて、目尻の涙をぐしぐしとこすった。手首をそっと掴むと、また涙がぼろっと落ちて下からは「冷たかー」と言う状況にそぐわないのんびりした声が響いた。
「なんで、笑っと、るん?」
「こんな眼、いくらでもあげるったい。ばってん、ちょびっと痛かぁ」
「ばか、あほ、ばかちとせ」
「ひどかー」
また、ひくりと喉が引きつる。
ついさっきだった。何でもないことから、それこそ、千歳の猫みたいな性分にかあっと頭が熱くなって、何も考えられなくなって、がむしゃらに手と足を振り回して暴れまくって、それで、それで。気がついたら振り回した手が、
千歳の右目に当たっていた。
それで目をおさえて、膝からかくりと座り込んだ千歳を見て、はっと我に返った。暴れてる最中に流れた涙がまた溢れて、ひたすらばかばかと連呼しながら千歳に抱きついて、そしたら怒るどころか千歳は「金ちゃん泣かんで」と言って頭を撫でて来たのだ。
なんで笑ってるんだろう。こんな酷いことされたのに。なんで自分はこんなに怒ってるんだろう。傷つけたのは自分だから自分は落ち込んでるはずなのに。
「ええ加減、怒らん、の?」
「優しかね……金ちゃん」
ふわり、と透明な笑みを千歳が見せた。それを見たらつきりと胸の奥が痛んだ気がした。ずっと前に自分を傷つけたあの九州二翼の一人にも、同じ笑みを見せたのかもしれない。でもきっと、この笑みを見せるのは俺らだけであって、心を許しているあの人の時は、怒った声でなじったのかも知れない。
まだまだ、全然、知らない。じれったい。今でも千歳の心にはあの人が居て、ずっとあの人が一番だとしたら、と思うとすごくもやもやしてうわあっと叫びたくなる。本当に此処が好きなのかとか、自分が好かれてるかとか、ごちゃごちゃに頭が渦巻いて、叫びだしたくなってしまう。さっきだって、その“うわあっ”と言う状態が来てしまったのだ。
「千歳、ワイな」
「ん」
「千歳が、今でも橘くんと繋がっとるんが、嫌や。いつか、どっか行ってまう気がするんや。やから、ずっと、此処に居て欲しい、……」
とぎれとぎれに不器用に伝えると、千歳は俺の手を握って、また笑った。あの笑みだ。透明で綺麗な綺麗な笑み。
また、ぽたぽたと涙が水たまりを作って行く。
「……きっぺーは、大事な友達ったい。でも、こぎゃん好いとぉとこ、簡単には離れんったい」
「……おん」
「やけん、笑っち」
おん、とまた頷いてぎゅっと上から千歳を抱き締めたら、柔らかい笑い声と共に「ありがとね」と声がした。だから、そのまま腕の力を強くして、大好きな千歳がどこにも行かない様にして、最後に零れでた涙を日だまりの匂いがする学ランにしみ込ませた。
-------------------------------- 知らないあなたと知ってるあなた ----------