BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 神様、それはあまりにも不公平です。 ( No.103 )
- 日時: 2013/05/04 13:04
- 名前: 夜藍 (ID: JuyJRz6j)
第三十四話。
「あの子は北の国で育った、極々平凡な少年だったよ。ある事を除いてはね。」
彼は北の国にある小さな山間の村で育ったらしい。
そう裕福ではない暮らしだったが別に苦しくはなかったと彼も言っていた。
きっとそれは両親が懸命に働き、私にできるだけ不自由ないようにしてくれていたのでしょう、と。
だが戦乱の世、盗賊、海賊などが小さな村々を襲い金品や食料を奪っていく事件が多発してな。彼の村も例外ではなかった。
しかも悲惨なことに村人は抵抗し、武装したため盗賊達から反撃を受けたのだ。
結果、村人は惨殺され、村は壊滅状態。
生き残ったのは彼と彼の母親だけだった。父親も盗賊に殺されてしまったらしい。
逃げ延びた二人は国境を越え、遥か遠くまで旅をした。
だが皮肉なことに________母親は旅の途中で会った海賊に殺されてしまったのだ。
しかも彼の目の前で、な。
彼は元々女顔で女子に間違われることが多かったようで、この時も例外ではなく海賊団に捕えられ売り飛ばされかけたらしい。
だが海賊団が母親にすがり泣いている彼を引き剥がし捕えようとしたとき、彼は平凡な少年ではなくなったのだ。
彼のブロンドの髪は黒く染まり、海のように深くて美しい蒼の双眼は深紅に変わった。
そして手に持っていた短剣でそこらにいた海賊を切り刻み、殺し、殲滅させた…。
そうして力を使い果たしたかのようにそこで彼は倒れ、死んだ。齢十六のことだった。
その様子を私は空から眺めていてな。あまりにも哀れで可哀想だと思った私は彼を助けた。
光…お前と同じように、大神様に頼み込んで生き返らせてもらおうと思ったんだ。
でも昔から大神様は頭の固いお方で、そうそう許してはくれなかった。
このままでは彼は地獄へ落ち、終わることのない拷問の数々を受け続ける。
それだけは何としてでも避けたいと思った私は大神様にもう一度交渉してみた。
すると条件付きでもよいのならばとお許しが出たのだ。
そして彼を大神様の前へ呼び出し誓わせた。
死神として天界の助けをする事。
覚醒した彼の戦闘力は凄まじいものだった。それに目を付けた大神様は人手が不足していた死神に彼を任命したのだ。
何か一つ、代償として支払う事。
いくら哀れな境遇であれ、彼は人を殺めた罪人だ。血に濡れた穢れた手を天界の老人どもは忌み嫌う。
そこで彼が差別の対象にならぬようにとその事実を消し去ったのだ。大神様と私、そして彼しか知らぬように。
その代償として何かを差し出せと大神様は命令された。
すると彼は少し悩んだ後に「だったら僕の表情を差し出します」と笑った。
それが彼の最後の笑顔だった。
「そうして彼は今、死神として働いているというわけだ。彼が表情一つ変えない理由や素性がこれでハッキリしただろう?」
人差し指を立てて言うフィリアーに俺は目を瞬かせた。いや、話もそれはそれは壮絶だったさ。十六歳にしてえらく過酷な運命を背負ったもんだ。とても耐えられるものではない。
だがな、僕が突っ込みたいのはそこじゃない、そこじゃないんだ…
「なあ、フィリアー。」
「なんだ?」
「あいつって…男だったのかよ…。」
「そうだぞ。やはり気づいてなかったか。ああも極端に女顔であれば気づく者のほうが少ないだろうがな。」
いやまあそうだけども!女顔とかあれはそういうレベルじゃねえよ!端正な顔立ちプラス女物の服(しかもゴスロリ)だったら誰だって気づかねえよ!そこいらの男は皆コロッと恋に落ちるわ!
実際僕も可愛いと思っていたわけで…うわー…なんだろうかこの敗北感は。
ムカつくとかそういうわけではないが、虚無感?っつーのが心の中に広がっている。
完全に騙されたなこりゃ…いやあっちはその気はないんだろうけど…
沈んでいる僕にフィリアーは笑顔で肩を叩く。
「光、お前には私がいるだろう!」
「うるせぇ…死ねよ…。」
頭を抱えて言った一言は相当殺傷能力があったらしくフィリアーは大きな音を立ててベッドから転落した。