BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 神様、それはあまりにも不公平です。 ( No.106 )
- 日時: 2013/08/13 22:17
- 名前: 夜藍 (ID: rfy7IlR/)
第三十七話。
自転車で十分程度のところに、その市立図書館はある。
東京にしてはここは地方のほうな気もするがこの図書館はそれを感じさせないほどの膨大な量の本が揃っており、利用する人も多い。
そりゃあ国立図書館とかには劣るかもしれないが、そんじょそこらの図書館よりはマニアックな本からメジャーな本まで幅広く扱っているだろう。
図書館に着くとメルレッティはすぐさま自転車から飛び降り、館内へ入ってしまった。
まあ別にメルレッティはあの変態兄貴よりはずっとしっかりしているし何しろこういうところの常識は心得ているはずだ。
心配することはないと思うが、待ち合わせ場所を決めていないから再び合流できるかどうかが問題だ。いざとなったらアナウンスかけるとかなんとかしてもらうからいいのだが…
そう思いながら僕もメルレッティの後を追いかけるように館内へ入った。
館内は目的通りクーラーが効いていて十分に涼しい。正直、自転車を必死でこいできて汗をかきまくっているので寒いくらいだ。
受付のお姉さんに会釈をして、近くのテーブルに腰掛ける。
鞄から課題とペンケースを出したあたりで視界に黒い服がちらりと入った。
「光様。」
「おお、メルレッティこんなとこに…って、すごい本の量だな…」
どこからともなく現れたメルレッティは両手で山積みの本を抱えていた。しかも見たところどれもハードカバーだ。
「ここにはたくさんの本があるのですね。私感激しました…。」
本を机にできるだけ静かに置き、向かいの席に座るメルレッティは少し体を震わせながら本の山を眺めている。
表情こそ変わらないが多分言葉通り感激しているんだろう。
一番上に積み上げられた本を手に取り、少し眺めて表紙を捲る。
「メルレッティ、お前ただでさえその格好で目立ってるのにそんな山積みの本持ってきたら更に目立つだろうが…」
僕は顔を顰めながら言った。こんな目立つ格好の女子…に見えるであろう男子といるところを見られたら何より僕が恥ずかしい。
事実さっきからメルレッティは利用客にチラチラと横目で見られている。完全にこの空間で浮きまくっているのだ。
するとメルレッティは首をカクン、と折って「すみません。」と呟いた。
「光様の迷惑を考えておりませんでした…。ですがこんなに本が揃った場所に来るのは初めてで…その、年甲斐もなくはしゃいでしまって…。」
うつむいたままメルレッティはもごもごと言葉を続ける。くそ、可愛い。許さずにはいられない…確信犯か?確信犯なのか?
「お前、そんなに本が好きなのか?」
不覚にも男に可愛いと思ってしまった赤い顔をメルレッティの方から逸らし、僕が言う。
するとメルレッティは顔をあげ、少しだけ明るい声で「はい。」と言った。
「なにぶん、私はほとんど勉強という勉強をしないで育ち、死んでしまいましたから…こういう文学に触れて少しずつ勉強してきたんです…。」
「そうか…。」
捲られた本の側面を慈しむように撫でるメルレッティを見つめる。
苦しい思いばかりしてきたこいつの手は、腕は、血に塗れて穢れてしまったのだろう。醜い者共の血に。
その手が慈しむような動作をしていることが不思議で、そして美しくて見惚れてしまった。
「どうかしましたか?」
「…いや、なんでも。」
僕は課題に視線を移し、ペンを滑らせる。
メルレッティの本を捲る音がやけに耳にこびりついた。