BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 神様、それはあまりにも不公平です。 ( No.63 )
日時: 2012/06/10 20:51
名前: 夜藍 (ID: eVWzcu6j)

番外編   「あともう1cmの勇気」 五話


「お疲れ様でーす!」
体育館に響き渡る後輩と先輩の交わす挨拶。
頬に伝う汗をタオルでぬぐいながら私は前を向いた。

あの意地悪そうな元カノの姿はどこにもない。

先輩の隣には、誰もいない。


友達がいないわけではないだろうけど、確かに見たところ先輩は友達が少ない。
まるであのラノベのタイトル状態じゃない。
略して“はがない”…っていう、あれ?
意地悪元カノの言う事は悔しいが一理ある。

別に先輩は明るいタイプだから、嫌われるわけじゃないだろうけど。
どこか、“変わっている”と皆に言われてる。
つまり、三吉先輩は変人なのだ。

帰り道、その三吉先輩と、一緒の道を通る。
さっき言った通り、最近はよく喋るようになった。
すっごく、嬉しいんだけど…だけど…。

もんもんもんもんとモヤモヤした気持ちが私の中を支配する。

すると。

「羽生さん?」
「うわっっ!!!ごごご、ごめんなさいすいませんもうなんでもするから許してください!!!」
いきなり話しかけられた私は奇声を発して二、三歩後退する。
そんな様子に声の主は「ふふふっ」といたずらっぽく笑った。

「三吉先輩!?驚かさないでくださいよおおお!!」
「だって羽生さんいつもその反応じゃん。面白くって…。」
学習しなさい、と笑う三吉先輩は完全に私を馬鹿にしてる。
でもそんな先輩に怒ることも反論することも私はしない。
話しかけてもらえるだけで、有り難い事なんだから…

でも今日は、より一層話しにくい。
でも、でも…


聞きたいんだ、先輩の本音。



「先輩、彼女と別れたんですよね。」
「おおう、女子の情報ってのは早いねえー。もうそんなとこまでまわってんのかあー。」
先輩は傷ついてる様子も、落ち込んでる様子もなくあっけらかんと笑っている。
やっぱり、こういうところが変人って言われるポイントなのかもしれない。

「俺以外の人にもしそういう事があっても本人に言っちゃダメだよ?普通なら怒るか、気まずい雰囲気になっちゃうから。」
俺だから怒らないだけ、という先輩は自分から変人を名乗ってるかのようだ。
だったら、もっと聞いてやろう。とことん聞いてやるんだ。
KYでバカな私はもっと先輩を問い詰めることにした。


「あの彼女さん、先輩の事散々に言ってましたよ。振ったのあっちなのに。」
「あはは、そっかあー…まあ仕方ないんじゃないかねえ。俺にも落ち度があったってわけで。」
また笑う先輩にさすがの私も顔をしかめた。
どれだけプラス志向なの、この人は…
それに、それに________________。


「先輩は落ち度なんてありませんよ!こうやって笑ってる人って珍しいと思います!素敵だと思います!!」
「おお、嬉しい事言ってくれる人もいたもんだ。」
つい恥ずかしい事を口走ってしまった…
顔が火照るのが分かる。私は先輩に見られないように両手で顔を覆った。

そんな私を知ってか知らずか分からないが、先輩は話を続ける。

「それにさ、俺はどんなに言われてもいいの。俺が彼女を好きだったことに変わりはないってことでおっしまーい!」
「なんですか、それ…。」
「一方通行な愛ってやつ??」
「ちょっとキモいですそれ。」

ひどいなあーと先輩は苦笑した。








私の前を歩く先輩をもう一度引き留めて聞きたいことがあったけど…



怖いから、やめた。



服の裾を引っ張れるまであと、1cmだったのに。



怖くて、やめた。


答えはまだ聞きたくない。


あともう1cmの勇気を私が手に入れれるまで…


あと…何日かかるだろう。


夏休みの初日は、夕焼けが目に染みて眩しかった。