BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 神様、それはあまりにも不公平です。 ( No.66 )
日時: 2012/06/21 13:33
名前: 夜藍 (ID: eVWzcu6j)
プロフ: 期末テスト…明日で…おわr…((ガクッ

番外編 「夏祭りと私と」 佐久真目線 一話。

鏡の前で、私はニッコリと笑顔を作って見せる。
どこもおかしなところがないか、体をそらせてチェックしたり、少し緩んだ髪の毛をもう一回くくり直してかんざしに近いものを頭にさす。

「よし」と呟いて、下駄を履く。
下駄特有の乾いた足音が玄関に鳴り響いた。
私はこの音が好きだ。年に一度しか出番はないが、季節を感じられるこの音が好きだ。

家を出て、近くの公園へ向かう。


今日は、年に一度の夏祭り。




いつもなら大勢の友達と行くのだが、今年はなんだか一人、二人しか捕まらなかった。
まあ大勢の友達ときゃいきゃいしてても屋台の人にウザがられるという難点もある。
今年くらい少人数でだっていいだろう。

と、思っていたら。

巾着袋に入れていた携帯から振動が伝わる。
バイブ音の響くその携帯を取り出してみると、二件メールがあった。
内容は、二人とも用事があっていけない。というもの。
「くっそー今年は一人か…。」
でもここまで着物着て、髪型セットして、下駄まで履いてきたんだから行かないわけにはいかない。
「まあ、一人を楽しむとしますか!」
傍から見たら少し、いやかなり寂しい人のセリフを言い放ち、私は走り出した。



「チョコバナナがなんだかんだで、一番おいしいと思うんだよなー…」
屋台がたくさん並び、人がごった返してる公園で誰にも聞こえないような声で私なりの考えを口にする。
「かき氷ってすぐ溶けちゃうし、フランクフルトは熱いし、それにわたがしとか甘いだけだし。」
ぶつぶつと何の罪もない屋台の商品にクレームを付けながら歩く。

からころ、からころ、と乾いた音が二回鳴り響いてから、私は顔を上げた。

「お、佐久真じゃね…あ、いや、佐久真さん。」
「ボロが出てるよ。」
やっぱり、さっきから見られてるような気がしたけど羽生くんだったんだ。
いつもの敬語を使い忘れてる。可愛いなーもう!
羽生くんの隣にはフィリアーくん。お面を頭に着けちゃってちょっと子供っぽい所もあるんだなーって思った。
でもお面が狐のお面だから少し妖艶にも見える。月光に照らされて綺麗。
でも当の本人はニコニコ笑ってるから一瞬でそんなの吹き飛んでしまうけど。

「美琴は一人か?」
「うん、友達キャンセルになっちゃって。」
えへへ、と苦笑する私にフィリアーくんは首を傾げてる。
なんだろ、なんかおかしかったかな。
そんな様子のフィリアーくんの代わりに羽生くんが今度は口を開いた。
「佐久真…でいいのか。佐久真と約束してたのって姫川達だよな?」
私とこの前した約束を思い出したようで、羽生くんは呼び捨て、タメ口で話し始める。少し違和感があるけどそこも可愛い。
多分約束してたことを知ってるのはクラスで結構騒ぎながら話していたからだろう。

「うん。萌香達は元々キャンセルで、のんとあーちゃんが今日キャンセルになっちゃって…。」
「ああ、灰原と叶崎…か。」
少し神妙な顔つきをしていたけど、しばらくすると羽生くんはなんでもない、と笑った。

「じゃあ、またどっかで会ったらねー。」と会話を交わして、二人とは手を振って別れた。
少し遠くなった二人を眺めていると、フィリアーくんが羽生くんのかき氷を勝手に食べて怒られているのが見えた。
本当にもうはやくくっついちゃえばいいのに、とつくづく思う。
羽生くんはフィリアーくんの事を拒んでるみたいだけどフィリアーくんの猛アタックでちょっとくらい惹かれたりしないのかな。

なんてちょっと妄想をしつつ、りんご飴を購入してそれを食べながら前を向く。

妄想なんて吹き飛ばされた。

現実に引き戻された。

ふふふっと笑って緩んでいた頬が、無表情になっていくのが自分でもわかった。



「萌香…のん…あーちゃん…皆…」


私の約束をキャンセルした皆は“私抜き”で夏祭りを楽しんでいたのだから。