BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.10 )
- 日時: 2013/03/30 10:35
- 名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: YohzdPX5)
(佐野×ゆーき)(出会って8年とか。26さい)(ふたりは救命医さん)
まるで「最後の一葉」みたいだ。
佐野はいつか読んだ、ヘンリーの有名な作品を思い出した。
ゼーゼーと、呼吸器音が酷い。
きっと気管は既にいくらも開いていない。お互い医者とはいえ、あるのは勝手に病院から持ち出した簡易的な薬だけ。
それでよくなる筈のないことは、佐野にもゆーきにも分かりきっていた。
そっと、頭を撫でる。
絡まった髪を指で梳かすと、ゆーきの睫毛がふるふると揺れた。
「……、佐野」
「なんだ。起きてたのか」
「んー」
おざなりに返事をして、また激しく咳き込む。
固く瞑られた目から、涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
これで何日目かな。
取り留めもなく、佐野は記憶を辿る。
病状は悪くなるばかりだ。
もともと体力があるわけではなく、それに加えて連日の激務。
そして、喘息の発作。
ああ、倒れたのが月曜日だから、これで6日か。
佐野はため息をつく。
「、いーかげん、死ぬよ?」
「……うん、」
にこりと笑うそれは明らかにはぐらかしでしかなくて、病院に行く気なんて、毛頭ないのだ。
それを佐野は知ってる。
それを知って、ただ髪を梳く。
ゆーきの病院嫌いは昔からだし、お互い相手のことに干渉しないのもまた。
昔から、側にいるのに、ずっとずっと遠かった。
それは、とってもいい意味で、少しだけ悪い意味で。
執着しない、だけど隣には絶対いてくれるのだという安心感。
昔はそれがとても心地よかったのに、今じゃ、愛してる、が返ってこないことが苦しくなった。
年、くったなぁ。
そのくせ干渉しない、は癖になっていて、それは過ごした時間が長くなるにつれて禁忌みたいになっていった。
こんな時まで。
これは自殺幇助かなぁ、なんて。
いや、むしろ殺人かなぁ。
命の大切さも分かってるつもりだった。
後で後悔するんだろうことも分かってた。
だけど、もし禁忌を犯したのなら、恋人っていう関係も壊れてしまう気がして。
だから、言ってみればこんなの、こんな気持ち、ルール違反なんだ。
なのに。
諦めたような瞳につい苛立つ。
なんで、
なんで。
死ななくちゃいけない理由はどこにもない。
今からだって、救急車呼んで病院に行けば発作だってすぐに収まる。少し、入院をしたら身体もすっかり元に戻るから。
ゆーきが退院したら、もう仕事なんて辞めよう。
お前と一緒に暮らせたら、どんな生活だっていいから。
それで、ああ、そうだ。
二人で田舎に引っ越せばいい。
空気が綺麗で、海に近いところ。
そこに病院をたてたらどうかな。
のんびり、患者さんを診るんだ。
今みたいに夜勤に追われることもない。
だから、休日には昼までベットで過ごそう。
夕ごはんは一緒に作ろう。
お風呂でシャボン玉を吹かそう。
今まで出来なかったこと、たくさん、たくさんしよう。
だから、ね。
(お別れだとか、ふざけんなよ馬鹿、)
それを言葉には到底出せなくて、佐野はきつく唇を噛む。
泣き喚きたい気持ちを必死に理性で押さえ込んで、立ち上がりさまに問う。
「あのさ、もしお前の心臓が止まったら、俺はどうしたらいいわけ」
少しだけ、声が震えた。
ひと呼吸のあと、ゆーきは何か言いたげに口を開いた。
そして、またひと呼吸。
躊躇いの末に彼はこちらをしっかりと見た。
しかし、一際辛そうな喘鳴に言葉を遮られる。彼は目を伏せる。
諦めたような。
整うはずのない呼吸を気持ち整えて。彼は微笑んだ。
「……、好きにしたらいいよ」
そう言い残して、愛しい人は目を閉じる。
「え、」
ひっきりなしに鳴っていた喘鳴がすうっと止んだ。
え?
待った、待った。
理解不能、、
いや、違う。
頭では理解できてるんだ。
心肺停止。
脈なんて測らなくたって分かる。
だって何度も見てきた。
もはや、見慣れた光景。
なのに、
「ゆーき?」
ただ愛しい人を呼ぶ情けない声が部屋を駆ける。
まずは落ち着く事だって知ってる。だからさあ落ち着け。
でも次はなんだっけ。
脈と、瞳孔散大? あ、違うこれ死亡確認。
二番はそうだ。
意識の確認に119通報。
それから気道確保に人工呼吸だ。
あ、でもそれは意味がない。
どうせ気道なんて使えない。
だったら、心臓マッサージ。
あんまり得意じゃない。
やるけど。
えーと、
心肺停止後、三分。
いや、そうなんだけど。
それは今必要な情報じゃなくって。
指先が嫌に冷たい。
あれ。
もしかして、焦ってるのだろうか?
……、やば。
身体、動かないや。
ーーーーーゆーき。
冷たい手を、そこに横たわる命に添える。
えっと、
五センチ。
これで肋骨折れたりしたら、あとで絶対嫌味言われる。
だから、きちんと、やんなきゃ。
どうして、毎日やってる筈なのに。
手が震える。
だいじょーぶ、
ね?
大丈夫。
ほら、ちゃんと心マ出来てる。
そう言い聞かせて、規則的に、心臓あたりを上下させる。
……本当?
出来てる、かな。
ごめん。
なんか、泣きそうなんだ。
こんな時くらい、代われよ。
ばか、ゆーき。
「……っ、」
視界が狭い。
ゆるゆると、じわじわと世界が滲んでいく。
おかしいな。
ぱたり、ぱたり指の隙間に落ちる滴が冷たい。
なんだよもう。こんなの、
不安なわけじゃない。
ただ、悔しいだけ。
の、筈。
なのに。
仕方ないだろ、
怖い。
だから、早く、俺を助けろよ。
- Re: 瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.11 )
- 日時: 2013/03/30 10:36
- 名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: YohzdPX5)
「っ、戻った……、」
ごめん。
ゆーき。
長年、暗黙の了解だったこと。もう、守れそうにない。
でも、好きに、って言ったのはゆーきで、それを選んだのは、ゆーきの意思ということだろうか。
ああ、もう。
難しいな。
どこを、どう取り違えてしまったんだろう。
いつから、こうなってしまったんだろう。
どうしてこんな複雑にからみあってしまったんだろう。
「ゆーき、」
「……さ、の………」
焦点の定まったような定まらないような視線が佐野の周りをまわって、それを見つけると、安心したように閉じられた。
ずいぶん、呼吸は楽になったみたいだった。
「お見事ですなー」
「……馬鹿言え、俺、心マ苦手」
「知ってるよ、」
ゆーきは、ふふ、ってか細い、楽しそうな笑みを漏らす。
「救急車呼んだ?」
「あ、」
「やっぱり忘れてる」
「……すみません」
慌てて携帯を取り落としそうになりながら119プッシュする。
ゆーきはそれにまた笑った。
「佐野、俺よりずっと動ける癖に、土壇場弱いからなぁ、」
「ほっとけ」
「心マとそれだけは俺の勝ちだ」
まるで、昔みたいな会話。
ちらっと開かれた瞼から覗く瞳が、いつものいたずらっ子みたいで。
「……………まさか、それ言うために……?!」
「…………は?」
大真面目だったのに、返ってきたのは、なんだか馬鹿にしたような声。
いや、ような、じゃなくてしてるか。
大爆笑された。
「なんで、、俺、そんなことに命賭けるほどの馬鹿にみえるかな」
そりゃあもう、普通の時だって咳き込むくらいに、笑われた。、
ひい、ひいって笑いながら咳き込むその背中をさすってやって、それでもまだ笑い続けるゆーきに、もう一度言ってやろうかと思った心を収めた。
てゆか、なんかいろいろ限界だった。
ゆーきさんは笑ってますけども。
ベッドにダイブ。
聞き慣れたギシリ。
それさえ、懐かしくて。
いろいろと、限界だった。
「佐野、」
「………っ、」
今声を出したら、非難と一緒になんか駄目なものまで出てきてしまいそうで、口はつぐんだ。
「………佐野」
触れて、縋って、抱きしめられて、やっと、そこにあるのだと知る。
この手が触れているのは確かに生きたそれで、離れることはないのだと。知る度に、恐怖が解ける度にその大きさに気付いて、さらに涙を煽った。
今度は、俺が背中をさすられる番だった。
「……俺さ、死にたいわけじゃ、なかったよ」
ぽつりと、ゆーきがつぶやく。
「なんか、ね。仕事やだったし、発作しんどいし、病院行くの嫌だし、佐野とも、なんか縛らない、とは違ってきてすれ違っちゃってたし、」
「だからなんか決めるのも面倒になっちゃって。ーーー佐野に、任せちゃった」
「怖い思いさせて、ごめんなさい」
感情を移すように、声も、震えてた。
「……愛してる。俺は佐野のものだよ」
「………ばか」
言ってみて、ゆーきの比じゃないくらい震えた声に自分でも驚く。
でもまぁいいやって。
「そんなの、最初からだし。……それに、俺もゆーきのものだろ」
ただそれだけ、伝えたくて。
俺らは恋人なんだよって、
そんな当たり前で、当たり前じゃなかったこと。
「そっか、」
俺のの心臓の音に、もう一つの心臓の音が重なる。
ただ、そばにいて、抱きしめる、それでよかったんだ。
さあ、束縛なんかじゃない、甘い甘い言葉で繋がろう。
もう離れることはない。
愛して、愛されて。
ずっとずっと、
俺は、確かにお前を、
「愛してるよ、」
//
佐野×ゆーきの本編みたいなお話。
すれ違っちゃう感じで。
縛らない、がいつのまにか二人を苦しめてた。