BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.14 )
- 日時: 2013/03/30 17:01
- 名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: YohzdPX5)
- プロフ: 真兎さまの!(俊×淳哉)
「ねぇ、たまには、シュンって呼んでよ」
じゃんけんに負けて、コンビニから缶チューハイと裂きイカとプリンを手に、俊の家に帰宅すると、彼はごろんとベッドに横になっていた。
淳哉はあまりよろしくない思い出のあるベッドに、今日は飲みすぎないようにしなければ、と苦笑した。
待ってしたとばかりに手を伸ばす俊に、短いレシートを渡す。
するとこっちじゃない、と見上げられた。
お望み通りのそれを渡せば、彼はにこりと笑う。
ほんと、罪作りってこういうことをいうのだと思った。
「んー、呼んでほしいの?」
「うん」
ゆるく言葉を濁すと、返ってきた即答に少しだけたじろいだ。
「……やだ、」
「え」
「何?」
「呼んでほしい」
「ほしくない」
「えー、なんで」
「トシが楽しみそうにするから」
「じゃー楽しみじゃない」
「それはよかった」
「このくそ、」
ありきたりな悪態に、ありきたりな悪態を返す。
こうなったら小学生の喧嘩だった。
至極くだらない、言葉の応酬。
それで雰囲気が悪くなることのないことは、二人は経験から知っていた。
「おまえの母ちゃんデベソ」
「車にひかれてぺっしゃんこ」
などと世間には見せられない品性の欠片もない辺りまで到達したころには、お互い楽しくなってきてしまって、なんかもうどうでもよくなる。
だから淳哉は油断した。
「恋人に名前さえ呼んでもらえないなんて、とても悲しいことだなぁ」
流れたと思っていた話が、再見戻ってくるだなんて。
芝居がかったそれが、逃してくれなさそうなことに気づく。
そんなに呼ばれたいのか。
珍しくしつこい。
逸らしていた視線を彼のほうに向けると、期待した、楽しそうな微笑みに責められて、またぱっとそらした。
道徳的に考えて、俊の言うことがわからないではない。
相手の嫌がる名前で呼ぶこと、
つまり、琢也くんを豚也くんと呼ぶことと何が違おう。
意地でも呼びたくない、などとそれを勝手だとも知っている。
(………う、)
それに、恋人、という言葉が。
淳哉の鼓膜をゆっくりと揺らした。
「恋人」ならば彼そのもの、それを呼びたいとも、もちろん思う。
唾を飲むと、ごくり、と喉がなった。
恋人、こいびと、「恋人」、
心の中で反芻すれば、その響きの愛しさは増した。
薄く唇を開く。
だけど、それでも呼びたくないのだ。
意地なんかじゃないけど。
呼びたく、ないのだ。
「ーーーー、っ」
シュン、とただその一言、紡ごうとして臆した。
やっぱり、飲んでおくべきだったかもしれない。
「………、ごめん」
馬鹿だ、と思った。
ずり、と視界から外れたベッドからそれは毛布を引きずって、横に座った。
のがなんとなく見えた。
唐突に、ふわり、と身体が浮いた感覚。
「ん」
いきなりに、身体は俊の胸に引き寄せられていた。
一瞬、何が起こったのか分からなくて、
そのうち、状況が飲み込めて、
じきに、まるで女の子にするみたいに優しく、髪をとんとんってする彼の手に気づく。
なんのつもり。
「ーーーーーー?」
視線で問うて見せると、彼はひっそりと眉をしかめた。
「なんか泣きそうな顔してた」
「………うそ、」
「嘘ついてどうするんだよ」
「……………」
「、別に、淳哉をそこまで困らせるつもりはなかったんだけど」
黙っていると俊に謝られてしまって、淳哉は、あー、だとか、うー、だとか、ぐるぐるした心の中をそのまま言葉に表したような声を発するだけになってしまった。
もう一度謝罪をするには恥ずかしくて、かといって本当のことを言うのも憚られた。
「……………、すき」
結局、言えたのはそれだけ。
中間すっとばして、原因と結果の、その根本のただそれだけの気持ちをありふれた言葉に乗せることしかできなかった。
いちばん大切なこと、それは唇の外まで引っ張りあげるには、少し重すぎた。
彼の肩を両の中指と薬指で押すと、自然な距離で彼と目が合った。
明るめの髪と違って深い色の虹彩が、きらりと猫みたいに、言いかえれば探るみたいに、光ったのがわかる。
淳哉はどきっとした。
「ぜんぶ?」
きらり。
「、うん」
全部、ぜんぶ好きだよ。
「怒ってる?」
これは気遣い込みの、きらり。
「全然」
嘘は、言っていなかった。
すると、きらり、がすっと優しい雰囲気に変わってまたとんとんってされた。
一体俺をなんだと思っているのだろう。
「それ、やめてくれる」
彼の腕の中だと、どうにも女の子みたいな気分になっていけない。
彼の手を払って、そのまま上から彼に抱きついた。
少々整髪料で固められた髪が頬をくすぐる。
でもこれで少しはましだ。
仕事を取られて手持ち無沙汰そうに、背を彼の爪が引っかいた。
「そうか。女の子には、ウケがいいんだけどなぁ」
睫毛越しに見上げられて。
「………"恋人"の前で、女の話は、なし」
ちょっとだけ、声が震えた。
また、きらり。
「あー、もしかして」
でもさっきとは違う。
ちょっとだけ、笑っているみたいに、きらりとした。
「ってか俺の勝手な妄想ーー…要望?なんだけど」
少しだけ言い淀んで、それからまた、俊の腕の中にぎゅうと押し付けられた。
なにも、みえない。
「ーーー、"トシ"の理由、"特別"が欲しかったから、とか……?」
あ、
(ーーーーーーーーっ、)
そんなわけない、と言おうと思った。
「ばか、」
なんで見透かされているのだろう。
「隠してたのに、」
彼は色恋の話には尽きないから、ときどき不安になる。
そんな女の子みたいな気持ち、重いことは、よくよく承知で、だからこその、たったひとつの形だった。
なのにこれじゃ、
これから恥ずかしくて呼べないじゃないか。
もう、なんなの、と繰り返す度に、みるみるうちに、俊の表情は笑顔に変わっていった。
悪かったと謝るその満面の笑みにさらに居た堪れない。
なんでそんな嬉しそうなの。
そしてこっちはなんでこんな泣きそうなの。
悪かった、ほんと、悪かったって。
そんな嬉しそうな顔で謝られましても。
声色は、どんなときよりも幸せそうだった。
「これからも、トシって呼んで欲しいな、」
笑顔と一緒のその言葉に。
頷ける純粋さは持ち合わせてなかったけど、きっと俊にはそれも分かっているのだろう、と信じた。
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ありがとうございました(´∀`*)